お墓でドライブ


 ちょっと前のことになるけれど、更新期限ぎりぎりに、免許証の書き換えに行ってきた。これを逃してしまったら、また失効である。出かける前に入念にハガキに書かれた内容をチェックし、持参するものを確認する。よし、今度こそ! と勢いこんで会社を出た。
 試験場には運悪く中途半端な時間に着いてしまい、手続きを終え、あとは講習を受けるだけなんだけれど、まだ次の回まで1時間以上間がある。午後半休をとってきたので、お昼も食べていない。駅前まで出ようかと思ったけれど、雨だし、寒いし、面倒なのでやめておいた。
 燻製室のように煙もこもこの喫煙所と講習室を行ったりきたりしながら過ごし、ようやく講義が始まる。
 受講者は若者がほとんど。偶然だろうか。 前回のうっかり失効から3年。当然一度も運転していないので、無事故・無違反。ようやくゴールド免許復活か、と思いきや、やっぱりそう甘くはない。 この教室は初回更新の人々が受けるべく講義だったのだ。なるほど、そりゃ若僧が多いはずだ。
 要するに、うっかり者は初心者と同じ扱いになるので、今回も3年更新、ゴールドはそれまでお預け! ということである。 こんなこったろうとは思っていたけれど、やはり免許更新には何かしらオチがつきものだ。
 とにかくまあ、講義を終え、無事に免許証が交付された。毎度のことだからがっかりもしなかったけれど、凶悪犯の指名手配写真のような顔が張り付いている。でも、これをしっかり財布の中に3年間温存していれば、次はゴールド免許獲得となるわけだ。
 ところが、ひょんなことから運転をする機会がやってきた。GWに札幌へ行った時のことである。
 せっかくだから、運転してみれば、と、亭主が言う。 そりゃ、北海道は道も広いけれど、交通事故発生率はダントツの日本一である。 拒絶する私を、
「感覚だけでも忘れないようにしておかないと」
 と、せき立てる。私は人をはねたくはないし、苦労して書き換えた免許証を失いたくはない。 だったら、墓地でやればいい、とおばあちゃんが助け舟を出す。亭主の母が眠る霊園は、とにかく広大で、車も人も少ない。公道よりはまだ安心なので、渋々承諾し、お墓参りを終えた後、私は数年ぶりにハンドルを握った。
 恐る恐るアクセルを踏み出す。人をはねたくはないけれど、仏様に突っ込みたくもない。それでも2周、3周と、のろのろ運転をしているうちに、ハンドル操作はだいぶ感覚を取り戻してきた。今回はこんなもので勘弁してもらい、無事、よそ様の墓石を壊すことなく、練習を終えた。
 こんな機会がもっと頻繁にあれば昔のように一人でもドライブを楽しむことができるのだろうけれど、我が家には車がないし、持つ予定もない。だいいち、今の生活にどうしても必要なものとは思えない。
 車があったらいいなと、思うのは年に一度だけ。 猫たちをワクチン注射のため、動物病院へ連れて行く時だ。しつこいようだけれど、私は腱鞘炎がひどいので、重たい物を運ぶのは亭主の仕事。もちろんこれだけのために車を買うわけにもいかないので、キャリー・バッグ+猫2匹、計12kgを、これからもがんばって運んでもらおう。


 


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