正しいお蕎麦の食し方



 どうしてこんな重要なことを忘れていたのか。まったくもって馬鹿馬鹿しい。日本円にして約1,300円というアンビリーバボーな高さである。
 一体どうしたかっていうと、ホノルル空港でのこと。
 靴まで脱がされる念入りなボディチェックの後、小腹がすいたので、搭乗する前に軽く朝食をとることにした。
 出国手続きを済ませた後は、見た目も怪しいうどんやら黄色いカレー等、大衆食堂を思わせるレストランとバーガー・キングくらいしかお店がない。機内食のことを考えて、バーガー・キングで数少ないブレックファスト・メニューの中から適当に目に付いたセットを頼むとこれである。
 たかだかソーセージ・マフィンとポテトとドリンクでなんと、$11! いくら空港だからって、これはひどい。
 でも思い返せば去年も同じものを食べ、高い高いとさんざん愚痴を言ったのだ。自分の記憶力の悪さにほとほとあきれ果ててしまった。忘れないように今回はこうして文章に残しておこう。

 はてさて機内。座席はひとつ空けて窓際に若い白人のお兄ちゃんが座っている。前の列の、やはり窓際にはお友達が座っているらしく、シートの間から顔を付き合わせてお喋りをしている。
 すいている飛行機で、欧米人限定でたまに見る光景だけれど、そんなに喋りたいなら隣同士に座れば問題ないのに、といつも思う。そんなに窓際がいいのだろか? まあ本人がよければそれでいいんだけれど。
 さて、後の楽しみといえばもう機内食しかない。過去3回、ハワイはNWを利用しているけれど、そのメニューは残念ながら変わりばえしない。特に帰国便2度目の食事(軽食)なんぞは1995年から同じもの。そばかサンドウィッチからのチョイスである。
 アメリカン・フーズに食傷気味の日本人はほとんどが『そば』を注文。私は今回、悩んだ末サンドウィッチにした。私の好きなターキーのハムを使っているからだ。
 そして、隣のお兄ちゃんにスッチーさんが聞いた。
「Sandwich or cold noodle?」
 コールド・ヌードル……。冷たい麺。そりゃ確かにそうだけれど、せめてJapaneseと形容詞をつけてあげたらどうだろう。 案の定、兄ちゃんは差し出されたプレートを見て固まっていた。プラスチックのそばちょこを手に取り、首を傾げている。 はたしてどうやって食べるのか、おもしろいのでそのまま見物していた。
 お兄ちゃんはしばらく考えていたけれど、結局、そばに直接つゆをかけ、わさびも海苔もふりかけず、不器用に箸を操って日本蕎麦を食べた。私もそばにしておけば、お手本を示すことができたのに、非常に残念だ。
 帰ってからこの話し亭主にすると、
「教えてやれよ!」
 と怒られてしまった。

 最後にちょっと不思議なエピソードで締めくくろうと思う。会社から直接成田へ向かった往路のNEXはほぼ満員。私の隣にはブロンド青い目のビジネス・マンが座っていたのだが、電車が動き出して間もなく、近くにひとつだけ空いていた席に移っていった。理由はよくわからない。お蔭様で膝の上にのせていた父の遺骨が入ったリュックを隣に置くことができた。
 そして、ホノルルへ向かう機内。けっこうすいているとはいえ、3席丸々使うことができた。ので、荷物棚に入れていたリュックをを下ろし、遺骨を隣の席に置いた。
 私は確信した。 ここに、父が居る。私の隣に座っている。私と一緒に、父はハワイへ行くのだ。だから父の分の座席がちゃんと用意されているのだ。
 単なる偶然だと言われればそれまでだけれど、私はそう信じたい。
 ずっとずっと、父はこの日を待っていたのだ。わくわくと胸をときめかせてハワイへ旅立つ日を夢見ていた、ありし日々と同じように。
 縁あって導かれる土地、ハワイ。そのうち退屈になった父から、お呼びがかかる日がきっとくるのだろう。その際には、もう一度船をチャーターして、美しいレイを海に浮かべてあげようと思う。

 さて、これにてハワイひとり旅は終了。無事にお役目を果たすことができたのも色々な方のご協力があったからこそ。 また、つたないレポートに最後までつきあってくださったことも、この場を借りて御礼申し上げます。





TOPHOME