S A I P A N
(Saipan Grand Hotel/Mar. 1995)



どこかへ行きたい。
唐突に湧き上がってきた想い。
考えてみると、ずいぶん長い間 旅に出ていなかった。
どうやら、スタミナ切れ。
久しぶりに旅行雑誌を手にとってみる。
できればきれいな海の側がいい。
幻暈がするほど陽射しが眩しい島がいい。
日本からとても近い異国の楽園に行ってみよう。
サイパンの旅は、こうして始まった。



これほど透き通った海を、
見たことがあっただろうか。
日本からたったの3時間で、
こんな美しい場所に出会えるなんて、
思ってもみなかった。
想像以上の透明度と
たくさんの熱帯魚。
日焼けなんて、気にしている暇もない。
時があっという間に過ぎてゆく。



最後に貝拾いをしたのは、いつのことだったろう。
真昼の太陽が照りつける暑い砂の上を、
一体、何往復しただろう。
故郷の海では、めったに見られなくなった、
かわいらしい貝殻や珊瑚の欠片。
夢中になって、私は拾い続ける。
手の平にいっぱいになるまで集めよう。
胸いっぱいの思い出と一緒に、日本に持ち帰ろう。



ホテルの敷地内に立つ小さなチャペル。
テラスからぼんやりと眺めていたら、
花嫁さんが姿を現した。
鬱蒼としたグリーンの中にひときわ映える、
純白のドレス。
鳥たちが歌い、波音が二人を祝う。
そして太陽が、祈りの光を降り注ぐ。
幸せな空気が、この部屋にまで運ばれてくる。



どこへ目を向けても、南国の花々が鮮やかに咲き誇る敷地内。
天から降り注ぐ光を浴びる木々が、午後の海風に揺れる。
一年中が夏という幸せ。
ほんの数日間、その幸せのおすそわけをもらうのも、また幸せ。
日常からたったの3時間で、こんな楽園にたどり着けることも、
やっぱり幸せ。



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