-Asian Beat  vol.5-




Bali, INDONESIA

−神々の悪戯−
 もし私がまだ独身で、あと10歳も若かったならば、間違いなくこの島のリピーターになっていたことだろう。 ひょっとすると、家族を捨て、国を捨て、何もかも捨ててこの地に住みついていたかもしれない。
 カカオ色の逞しい肌を正装で包んだベルボーイ達。心乱れた時の鼓動に似たガムランの音。神々の息遣いのような柔らかい風。
 そう、ここには思いがけなく恋におちてしまう環境が整いすぎているのだ。
 夏の日の恋は幻なんて歌もあったけれど、熱帯の恋は素敵な勘違いでいいと、私は思う。
 こと、この島に関しては、誰の罪にもなり得ない。
 都会で巡り合ったなら、なんてことない男の子が凛々しく見える時。風の中で嗅ぎ分ける花々の匂いが、妙に艶かしく感じることが出来る時。
 それらはすべて、神々が仕掛けたいたずらなのだ。
 バリの神様は粋なはからいをする。だから女たちは益々自分に磨きをかけて、再びこの島へやってくる。
 あとで泣きをみても知らないよと言われても聞く耳は持たないだろう。なぜなら彼女達はすでに、素敵な魔法にかかる覚悟を決めているのだから。



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