-Asian Beat  vol.6-




Bali, INDONESIA

−IN TRANCE−
 昼間のスコールのせいでぬかるんだ小道を苦労しながら歩いていると、男たちの呪文のような唄声が、沈みゆく太陽の光の糸を縫って聴こえてくる。
 恐ろしいほどに重量感のある、妖しげな声・声・声……。
 断崖絶壁に立つウルワツ寺院でのケチャ・ダンス。決して譜面にすることのできない複雑なリズムは、まさに神懸りとしか言いようがない。
 同様に、この感動的な光景を言葉で言い表すのも至難の技だ。
 女というものは頭で怒るんじゃない、子宮で怒るんだと、言っていた人がいる。コントロールできない感情というものは、所詮、理屈ではないのだ。
 ケチャ・ダンスも然り。目で見るものではなく、耳で聞くものでもない。生身の身体で受ける神の啓示に他ならないのだ。
 ケチャは陽がすっかり沈んでしまうまで、続く。



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