-Animal Paradise  vol.2-




Moreton Island, Australia

−イルカ島の晩餐−

 ブリスベーンからクルーザーで1時間。モートン島には夜になると、野生のイルカが海岸線に集まってくる。島でただ一つのホテル、タンガルーマ・リゾートのマリン・センターには、イルカたちの出席簿が掲げられている。それぞれの名前と出欠の○×。この1週間、Nickはさぼっているようだ。
 夜を待ちかねて、テラスのデッキチェアから夕陽が沈んでゆくの見届けていると、突然、薄闇に包まれた。
 え、停電? すべての文明の音が消え去り、思いがけない出来事に騒然とするゲストのざわめきだけが聞こえてくる。
 自家発電装置が働き始めるまでの十数分、静寂の中で鳥の声を聞いていると、明かりなんかなくたって生きていけるのに、とさえ思えてくるから不思議だ。
 電気が復活したのも束の間、いざイルカに餌付け、という瞬間、再び闇が島を覆った。
 わずかな月明かりを頼りにイルカの口元に魚を差し出す。大きな口にあっという間に飲みこまれてゆき、旅のメイン・イベントが終わってしまった。
「なんか、あっけないね」と言う母を、朝になればペリカンに会えるよと励ますと、
「今日、Nickは来たのか、聞いてきてよ」
 と、後片付けをするスタッフに私を差し向ける。
 食事を終えたイルカたちが沖へ戻ってしまうと、あとは夜が更けるのを待つだけ。
 ここは何もない島。自然以外は、何も。



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