-Asian Beat  vol.14-




Phuket, THAILAND

−Popye the Guard Dog−


−人波に混じって、犬猫たちが我が物顔で街を濶歩する。
 そんな当たり前の光景を見なくなったのは、いつの頃からだろう。
 近所で顔なじみの野良犬たちに名前をつけて遊んでいた子供時代。
 あの犬たちはどこへ行ってしまったのだろう。−

  パトン・ビーチの雑踏の中、ひしめく土産物店の一角で、 おとなしく座っている大きな犬を見つけた。
 ひとしきり頭を撫でて立ち去ろうとすると、ぴったりと後をついて来る。おそらく飼い主であろう店の女性は、なんでもないような表情で、 呼び止めることすらしない。
 結局、最後までその犬は私の買い物に付き合ってくれた。
 それからというもの、路上で私たちの姿を見かけると寄ってきて、 一緒に歩き始める。レストランにまで付き添ってくる。
 まるでボディガード。つかの間の主人になった気分だ。
 だから私も彼に名前をつけた。
  『ポパイ』
 特に理由はなく、ふっと浮かんだ名前だ。
 愛らしくて、たくましいポパイは、帰りもきちんとホテルまで送ってくれる。わかったもので、門から先は決して入ろうとしない。
 最後の夜まで、ポパイとのささやかな交流は続いた。

 角を曲がる度、路上で寝そべる犬の姿が目に入る。
 首輪なんぞ着けてはいない。飼い犬なのか野良犬なのかもわからない。
 それが、ここでは当たり前の風景。
 だから東南アジアはほっとする。
 先進国で失われた、地球のあるべき姿に触れることが出来るから。



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