-Asian Beat  vol.7-




Pulau Langkawi,
MALAYSIA

−島の風が運ぶ香−


 タラップを下りた瞬間、ねっとりとした空気が身体に纏わりつく。むせかえりそうなほどの湿気。激しいスコールが降ったのだろう。
 汗がじんわりと滲み出て、皮膚が最初の反応を示した後、私の鼻腔は、途端に忙しくなる。
 大地から立ち上る、蒸発した雨の名残り。体臭と、ガラムの匂い。スパイスと潮の香り。そして、生々しい、ジャングル特有の野生の匂い。それぞれが自己主張しつつも、渾然一体となり、南の島独特の匂いを醸し出すのだ。
 これは、子供の頃の夏の匂い。あるいは前世、私はこの匂いの中で暮らしたことがあるのだろうか。妙になつかしく、心の底からほっとするのは、なぜなのだろう。
 美しい海も甘いカクテルも、この匂いにはかなわない。今立つこの地で、この瞬間にしか存在しないものだからだ。匂いだけはフィルムにも収められない。消え去ってしまう持ち帰り不可能な思い出なのだ。
 だから旅人は、そして私は、何度も何度も、決して飽きることなく、南の島へ足を運ぶのかもしれない。
 定期的にこの空気を取り入れなければ、もう都会で生きてゆくことなど、とうてい出来そうにない。



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