-Asian Beat  vol.12-




Pulau Redang, MALAYSIA

−月夜の贈り物−


 パシール・パンジャンの夜は賑やか。 どのリゾート・ホテルにも明るい音楽が流れ、人々の笑い声が夜のビーチまで響いてくる。
 そんな中の蛍狩り。案内するのは私たちと歳も近いスタッフと、無理矢理くっついてきた、まだ18歳の島の少年。
 海はどこまでも暗いのに、日中、太陽に晒された砂浜はまだほんのりとぬくもりを残している。
 見事なまでの月夜。そのせいで、蛍の姿が見えない。
 すまなそうな表情のスタッフとは対照的に、少年は何をするわけでもないのに楽しそう。
 箸が転んでもおかしい年頃。生意気さも一人前。
「君が結婚していなかったら、きっと君のことを好きになっていたのに」
 などとかわいらしいことを言う。
 蛍は見れなくとも、月明かりの下で見る海の、幻想的な色にかなうものはないだろう。そして、こんな気の効いた言葉に勝るものも決して、ない。
 島を去る午後。ボートに乗り込む直前、お世話になった人々と握手を交わす。少年が差し出した手を握り返すと、小さく固い物が手の平に触れた。
 それは、真珠のような輝きを見せる、美しい巻貝だった。
「君にだけだよ。だから、内緒」
 と言いながら、またおかしそうに笑う。
 いつかこの少年も、月夜の砂浜で恋を囁く時がくる。そういう時には笑っちゃだめよ、と今度会ったら教えてあげよう。
 小さなプレゼントに顔を近づけると、今もあの島の匂いがする。



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