ニッポンの困り者〜おばさん編〜


 もうずいぶん昔の話になってしまった。初めての海外旅行――ハワイ。
 見るもの食べるもの、すべてが珍しく、興奮の4泊6日でした。ツアーのメンバーは新婚さん数組を含む総勢30名程。全員で記念撮影なんてものがあったので、しっかり記憶しています。中でも印象的だったのは、4人組のおばさんたちでした。そう、おばさん。2人以上のおばさんが集まると、そのパワーは想像を絶するまでになることくらい、誰もが知っていることですよね。亭主や子供の世話から解放されて、気の合う仲間と息抜きの海外旅行。結構なことだと思う。でも、よろしくないのはこの「4人」という数なのです。
 この時の機内の座席は3・4・3。真ん中の4席にならない限り、4人並んで座ることは不可能。電車のボックス席さながらおしゃべりしたいおばさんたちにとっては、ちょっとこれは問題でしょう。パッケージ・ツアーだと席も選べないことが多いので、2:2、最悪の場合は1:3に分かれる、ということもあるのです。
 けれど、最悪なのは当のおばさんたちでなく、不平不満を聞かされる客室乗務員、そして他の乗客だと言うことを忘れないでいただきたいのです。
 帰りの便。同じツアーだから、必然的にこのおばさんたちと一緒でした。運悪く1:3になってしまったおばさんたち。誰が1人で座るか、ひと悶着。早く座れよ、通れないでしょ! 結局、1人がこの言い争いにうんざしたように、 「私が行くわよ」 ということで一件落着。
 と、まあ、これはまだ基本的なことであって、しょうがないな、おばさんは、で済ますことができます。私だってさ、いずれはおばさんに…いや、すでに…。
 それはいいとして、時は流れて、2年前。成田→クアラルンプール線。またまた座席は不幸なことに座席は3・4・3
 運悪く、3:1に分かれてしまったおばさんたち。そして、もっと運の悪いことにおばさんたちのすぐ横に座ってしまった私。もうすぐ、離陸だよ。いつまでわめいてんの?
 おばさんたちは、どうやら視力が悪いらしい。誰もめがねかけてないけどね。コンタクト? 幼稚園児でも見りゃわかるでしょ? 満席なんだよ、満席!! 満席って意味、わかります? あ、わかるはずないか、愚問でした。
 とにかくこの席の割り振りが気に食わないおばさんたち。スチュワードさんをつかまえて、騒ぐ。もちろん、日本語で、マレー人スチュワードさんに叫ぶ!
 ついには日本人スチュワーデスを呼びつけて、席をどーにかしろ、あーしろ、こーしろ、と言いたい放題!
 黙って見ていたわけではない。私も友人も堪忍袋の緒が切れて、言ってやったのだ。
「みんな、我慢してるんだよ!」
「満席なんだから、しょうがないでしょ!」
「いいかげんにしてよ! 乗務員さんも困ってるじゃない!」
 まあ、実際はこんなお上品な口調じゃなかったですけど……。でも、私たちが間違っていました。
 おばさんには、周囲の人間の注意の言葉なんて、宇宙語に等しいものなのです。
 そんな根本的なことを忘れて、注意した私たちが馬鹿でした。
 ひっそりと席を離れた一人旅のお兄さん。その後に、このおばはんたちの1人が座り、決着がつきました。なぜスムースにそうなったかというと、あなたの席は、貴重なる「喫煙席」だったからです。そして、あなたの好意で空いたその席に、嬉々として移ったおばさんはスモーカーだったのです。
 一足遅く禁煙席になってしまった私たちは、食後、おいしそうに煙草をふかす、そのおばばをうらめしく見つめていたのでした。
 終始にこやかに対応していたスチュワードさん、スチュワーデスさん、聞き分けのない日本のおばはんたちなんか、上空から突き落としちゃっていいです。ほんとに。ええ、いいんです。私が許しますから。


 

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