ドリンカーズ・リスト
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 確かに3時間で1人6本はいくらなんでも飲みすぎたかな、と思う。
 久しぶりの海外旅行で浮かれていた成田→サイパン路線。しかもまだ出会って間もなかった亭主との初の婚前旅行。殆どお祭り気分で乗り込み、いくらでも飲めそうな勢いだったのだ。
 燃え尽きる直前の蝋燭のごとく、この頃が、おそらく人生で一番「飲めた」時期ではなかったか。とにかく無料サービスなのをいいことにビールを飲みまくり、初搭乗であるノース・ウェスト航空のスチュワーデスさんに大顰蹙を買ってしまったのだ。
 月日は流れ、およそ2年後、再びNW便で、私たちはサイパンへ向かうこととなった。
 既に酒豪ぶりも落ち着いて、食前酒をゆっくり楽しもうと、ビールを頼む。もちろん、1本づつのつもりで注文したのだ。 すると、日本人スチュワーデスさん、満面の笑みでこう言った。
「2本づつ、置いていきますね。足りなくなりましたら、又おっしゃって下さい!」
 なんだかわからないけれど、せっかくだから、早々と1本目を飲み干し、食事を終える頃、2本目もどうにか空に近づけた。 そして、食後、件のスッチーさんが再びやって来た。
 「ビール、お持ちしましょうか?」
  どうしてだろう。私たちって、そんなに飲みたそうな顔をしているんだろうか?
 ますますわからないが、好意に甘えて思わず「はい」と答えてしまった。 間もなくスッチーさんはビールを、きちんと4本抱えて戻ってくると、それらを全て私たちのテーブルに置いていった。
  前回乗った時のスッチーではない。乗務員と客として顔を合わせるのはもちろん初めてのことだ。なのに、なぜ彼女はこんなに「親切」なのだ?
  2年の間に何があったというのだろう。まだNWのマイラーではなかったので、固定客でも上客でもなんでもない、ただの乗客にすぎないのに……。
  私は確信した。 あるのだ、きっと。各航空会社には「ドリンカーズ・リスト」なるものが。 リストアップされた客が乗る便には、いつもより余分にお酒を積み込むのではないか。リストの備考欄には間違いなく、各々が好む酒の種類が記されている……。
 前回の旅で、うわばみのごとく飲みまくった私たちは、しっかりそのリストに名前を連ねてしまったのに違いない!
 誇らしいような、恥ずかしいような……。名誉なことではなかれども、こちらにとっては、ありがたいことに変わりない。けれど、エコノミー料金で乗っているのに、いいんだろうか、とも思う。あるだけ飲んだろという勢いで酒をたいらげていくんだから、どちらかといえば、迷惑な乗客だろう。スッチーさんの優しさに、なんだか申し訳ない気分になってしまった。
 あのう、NWさん。最近は常軌を逸した飲み方はしなくなったので、どうか、そのリストから外してくれませんでしょうか?


 

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