HANAUMA DRIVE



 ハワイ・オアフ島といえば定番の観光スポット、ハナウマ・ベイ。 ミーハーと言われようが、お手軽にシュノーケリングが楽しめるので、必ず足を運んでいる。
 最初はツアーに参加したけれど、2度目からはもう、勝手知ったるハワイだもの、自力で何とかしよう、と主人とガイドブックを覗きこみ、バスの路線を確かめる。
 下準備はばっちり。勢い込んでバス停に向かったけれど、予想外の長い列。間違いなくハナウマへ行く人々だろう。 座れるとは思っていなかったけど、これはきついかもね、と話していたらバスがやってきた。と、思ったら、さも当たり前のようにすーっと通り過ぎていった。中にはぎっしりと人の頭。要するに超満員で、乗れないのだ。 唖然とした表情でバスを見送る人々に近寄るロコのおっさんたち。
 ここで登場するのが『乗り合いタクシー』なるもの。 8人集まってから出発。1人2$。なんだか怪しいけれど、次のバスを待っても同じことだろう。長くはない休日。時間を無駄にしたくはない。 かくして同じ志の日本人8人がボックスタイプのタクシーに乗り込んだ。
 ドライバーは無口で人相が悪く、体格だけは立派な男。 ドライバーの隣にカップルが並んで座り、私たちを含む残り6人は後ろの座席に向かい合わせで押し込まれてしまった。 誰からともなく口を開く。
「本当に2$かな」
「着いてから法外な値段を請求されたりして」
「でも、これだけの人数いたら、あの男(ドライバー)1人くらい、ボコボコにできるっしょ」
 そんな会話からすっかりうちとけてしまった。
 面子は私と亭主(結婚前だったから彼氏だな)、赤ちゃんを連れた若いご夫婦、大阪の大学のゼミ旅行で来た(リッチだな)という教授とその教え子。私たち以外は関西人とあって、砕けた会話が飛び交い、楽しい往路となった。
 無事ハナウマに到着し、2$以上ぼったくられることもなく、それじゃあ、また、と散り散りにビーチへ向かった。
 魚たちに餌付けをし、十分シュノーケルを楽しみ、味の薄いカップ・ラーメンを食べ、そろそろ帰ろうかと、バス停のある場所まで長い坂道を登る。登りきったところで、声をかけられた。
「あのー、行きのタクシーで一緒だった人ですよねえ」
 赤ちゃん連れのご夫婦だ。聞けば、例の乗り合いタクシーで帰りたいのだけれど、8人集まらないと頑として車は出さないと言われ、1時間以上、待っているという。他にはカップルが1組。帰りのバスは比較的すいているけれど、赤ちゃん連れなので、混み合ったバスにはとても乗れないという彼らに協力して、一緒に待つことにした。
 ということで、6人。 さあ、あと2人。帰路に着く人に話し掛けても、皆、バスで帰るという。1$しか違わないのに、やはり、怪しんでいるのだ。ぼったくられることなんてないのに、誰も信用してくれない。
 十分ほど待っただろうか。
「あの教授たちがいれば、話しが早いのにね」
 と、話していたところ、坂を上がってきた人々は……。 反射的に手を振る。
「ほな、行きまひょか」
 教授はにっこりと笑った。 乗り合いタクシーは1台だけではない。なのに往路と同じドライバーの車。カップルが前に座り、後ろの座席は偶然にも行きとまったく同じ面子となった。 そして、これまた偶然にも翌日、全員が帰国の途に着くことがわかった。関西の4人は同じ飛行機だ。 わいわいと楽しい帰り道。海外まで来て日本人の顔なんて見たくない、といつも言っているけれど、こんなことがあると、同郷の友も捨てたものではない、と思う。
 やがて、若夫婦と教授の泊まるハイアット・リジェンシーに着き、私たちもそこから歩いてホテルへ帰ることにする。 困ったのが教授とは違って安ホテルに宿泊している生徒君。ワイキキのはずれにあるので、そこまで乗って行きたいらしい。 「だったらあと2$!」 と、恐い表情のドライバーに請求され、仕方なくお財布を探る。
「ほな、わてら後のことは知りまへんから」
 と、つれない言葉を笑顔で言い放つ、若夫婦のご主人。 泣き笑いの表情の生徒君を一人乗せ、思い出の詰まったタクシーは走り去って行った。 リジェンシーの前で皆と別れる。
「ほなまた、縁があったら」
  こんな縁なら、何度あってもいい。


 

TOPHOMENEXT