早朝カー・チェイス


 子供の頃から、絶叫マシンが大好きだった。 もっとも私が家族と一緒に遊園地へ遊びに行っていた時代には、回転もしなければ、逆走もしない、ごく普通のジェット・コースターしかなかったけれど。
 なにせアメリカのディズニー・ランドというところには、回転するコースターがあるらしい、という理由だけでアメリカが憧れの地となったくらいだ(ああ年がばれちゃうな)。
 飛行機も船も恐くない。乗り物関係で私が唯一、心底恐怖感を感じるのは、「かっとばす車」に乗った時だけである。
 マレーシア東海岸の隠れ家リゾート、タンジョンジャラからメラン港までは車で約2時間。ここから次の目的地、レダン島へ渡る。9時半のボートに乗らなければならないのに、迎えの車がやってきたのは7時45分。微妙なところだ。
 いくばくかの想いを残して、ゴージャスなリゾートを後にする。親切だった日本人スタッフ、プールサイド・バーのオカムラさん、おしゃべりな九官鳥。いつかまた会える日が来るのだろうか……。
 などと、感傷に浸っている場合ではなくなった。
 速い。速すぎる! 何もそんなに飛ばさなくても……。船は島のリゾート・ホテル所有のものなんだから、ゲストが揃うまではまさか出航しないだろう。
 見たくないけれど、つい、メーターに目が行ってしまう。あー、100キロ超えてる! あー、だめだめ、無理な追い越しはしなくていいから!
 私は心の中で叫び続けた。まさしく、『絶叫』である。
 そんな私の心境などおかまいなしにドライバーは飛ばす。速度はどんどん上がっていく。 そして、私は恐ろしい光景を目撃する。
 バイクが逆走しているのだ! こちら側(進行方向)だってバイクは走っている。ぶつかったらどうするのさ!?  これは、トレンガヌ州特有の交通法なんだろうか? 
 恐る恐る観察していると、ある法則がわかってきた。歩道にしては広いと思っていたのは、どうやら逆走バイク専用車線のようなのだ。で、直進バイクは車と同じ車線内を走っているというわけ。 納得できないけれど、そうとしか考えられないのだ。なんて恐ろしい。
 だからお願い、運転手さん、スピードを緩めて。こんなやくざな道路を朝っぱらからかっとばすなんて、生きた心地がしない。
 車はジェット・コースターとは違う。機械ではなくて、人の手によって、殺人マシーンにもなり得る乗り物なのだ。だからこそ、恐ろしいのだ。
 ほとほと疲れきって港についたのは出航の10分前。けれど時間になっても他のゲストを待っている。ほら、ごらんなさい。あんなに飛ばさなくても間に合ったじゃないの。
「帰りは午後3:00に迎えにくるからね」
 やれやれ、帰りも同じドライバーとは……。

 そういえばここ数年、遊園地に行っていない。暴走ドライブはご勘弁願いたいけれど、絶叫マシンに乗って、すかっとしたいものだ。
 自慢じゃないけど、私はサマー・ランドのフリー・フォールに11回連続乗ったことがある。

 

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