水中ミステリー・サークル


 リゾートではよく欧米人の団体さんを見かける。てっきり同じツアーで来たのかと思いきや、小人数のグループやカップル同士が仲良くなって、一緒に食事をとったりしているのが多いようだ。
 彼らのように、2週間も3週間も長期滞在が可能であれば、次第にうちとけ合い、自然と共に過ごす時間が増えてゆくのだろう。1週間も休暇がとれれば御の字な日本人にはとても考えられない。うらやましい限りだ。
 けれども、バンドスで見た団体さんは、あきらかにそんなグループ同士の寄り合いとは違っていた。
 朝もまだ早い時間だった。 宿泊したコテージのすぐ前には美しい海へと続く広大な庭が広がっているのだけれど、そこに、輪を作って座り込んでいる人々がいた。 かなりの数だ。30人はいただろうか。
 一体、何をしているのかと思えば、中の一人が話す言葉に、熱心に耳を傾けているだけ。中心人物は恐ろしく太っていて、長い髪を一部赤く染めている。皆、着ている物こそ水着だけれど、かなり妙な光景である。前日は見かけなかったので、着いたばかりなのかもしれない。社員旅行か何かで、オリエンテーションでもやっているのかな、と私の想像はそこで止まった。
 そのままビーチへ出て、デッキチェアに寝転び、暑くなってきたのでひと泳ぎしていた時である。例の団体さんが、ぞろぞろと海へ入ってきた。強い陽射しの下、かなり長い時間話をしていたので、さすがに暑くなってきたのだろう。でも、だからといって、全員揃って海へ入ることもあるまいに・・・・・・。
 と、思っていたら、彼らの目的は火照った身体のクールダウンでなかったらしい。連なって沖へ進んだ彼らは、再び大きな輪を作った。そして手をつなぎ合い、天高くその手を伸ばし始めるではないか。
 これはただの社員旅行なんぞではない。彼らは、一体、何者???
 海は広いとはいえ、はっきり言って、邪魔である。まあるく陣取られた箇所を避けてひと泳ぎし、デッキチェアに戻っても尚、彼らは海の中で手と手を握り合っている。 結局、1時間近く海の中にいたのではないか。
 やがて陸へ上がった彼らは、再び先ほどと同じ場所に輪を作り、例の長髪男の話を聞いている。そして、突然、盛大な拍手が起こったかと思うと、立ち上がり、散り散りに部屋へ戻っていた。
 とにもかくにも、あやしい。背景を替え、水着ではなく彼らが白く光沢のあるつなぎをこぞって着ていたとしたら・・・・・・。その正体はひとつしか想像つかない。
 これが日本だったら『郊外の道場』でのセミナーが、モルディブのリゾートとは、なかなか洒落ている、などと感心している場合ではない。あの美しき環礁が、彼らの本拠地になったりしないだろうか。何事もなく、これからも永遠に波が打ち寄せる平和なリゾートであってほしい。
 まあそれはさすがに考え過ぎだろうけれど、あれはなかなかビーチ・リゾートでお目にかかれる光景ではない。もう一度見たいとは思わないけれど、衝撃的だったなあ。


 

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