ダイバーズ・ロッヂの夜は更けて

 小説の方では知ったように書くけれど、暴露してしまうと、私は陸ダイバーである。つまり、ライセンスは持っているけれど、精力的に潜りに出かけるタイプではない。主人とリゾートに出かけた時、気が向いたら(あくまでも気が向いたら)潜る。そりゃ、潜れば楽しい。けれど問題は「潜ろう」という気になるまでが長いのである。要は、出不精で腰が重い人間なのだ。 もし、貴方がダイビングのライセンスを持っていて、かつ私のようなぐうたらであるならば、絶対にダイバーズ・ロッヂなんぞに泊まってはいけない。
 そこは、南の島の恋もときめきも甘いカクテルも心地良い風も一切要求しない、海に潜っていられればシアワセな純粋なるダイバーたちの聖地なのだ。「ただ眠れればいい」場所なのだ。 私はとあるミクロネシアの島でライセンスをとった。宿泊はそのダイビング団体(という名称でいいんだろうか?)が経営しているロッヂである。まあ今回はお遊びじゃないし、安いし、いいかと思って申し込み、到着して絶句した。
 ないないないない何にもなあーい! テレビもない、バス・ルームにはアメニティもない、シャワー・カーテンは破れている、お湯は出ない、おまけにハウス・キーピングは入らない。5日後帰る、その日まで。
 ライセンスを無事取り終わり、あと2日は休息、と思っても、海へ行くのもひと苦労。ロッヂの前の国道を渡って、背丈以上もある藪の中をかき分けなければならない。仕方なく20分も歩いて一番近いホテルにゲストのふりして潜入し、プールを使わせてもらった。
 夜は夜で(街まで遠いので)することもなく、テレビがないから、「・・・・・・」ってな感じでゆっくりと時は過ぎる。会話の少なくなった倦怠期の夫婦にはよいところかもしれないけれど。
 つくづく私は海のロマンなどというガラじゃないんだと自覚した。美しい魚たちと戯れるよりも、カクテルを舐めながら可愛いウェイターの男の子たちをにやにやと眺めている方が性に合ってる。これはもう、ものぐさだとかルーズだとか、性格的なことを超えた宿命みたいなものだろう。幻の魚よりも近くの美少年、といったところでしょうか。どうしようもないな、これは。


 

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