もこもこオレンジ
夏日だったり、冬に戻ったりと、はっきりしない天候が続いたこの春先。
さて、ハワイへは何を着ていこうか。
衣装持ちには程遠く、選ぶほど持ってはいないけれど、当日は会社を早退しての出発となる。カジュアル・フライデーではないが、ジーパンは許してもらうとして、向こうに着いてさっと夏の仕様に変身できるような服装はないかと心砕いていた。
にもかかわらず、いやがらせのように落ち着かない天気が私を悩ませる。
結局、前日の天気予報に頼らざるを得なかった。
当日は曇り、最高気温は20度、とのこと。薄手のジャケットじゃ寒いだろう。
ようやく心決めて、私は亭主に言った。
「ねえ、あの"もこもこオレンジ"借りてっていい?」
「あー、いいよ」
2、3秒の沈黙があっただろうか。 テレビに見入っていたはずの亭主が突然、振り向いて言った。
「なんで"オレンジのフリース"って言わない?!」
まあ、確かに。けれど夫婦には夫婦間でしか通用しないスラングがあるのだ。どんな夫婦にでも。
我が家の場合。例えば、"る犬"。
愛息、ルーと同じ茶斑模様の犬で、近所に住んでいる。ルーと同じ柄の犬だから、"る犬"。
向かいのアパートの階段にいつも座っている猫は"管理人"とかね。ついでに言うと、ルーとココをまとめて"るここ"と呼んでいる。目敏い方はここでお気づきだろう。URLにもメールアドレスにも"rucoco"が潜んでいることを。
猫に関してはことさらに、多い。 ルーの姿が見えない時は、
「あれ、ぶっちぶちはどこ行った?」
ココがなかなかお布団に来ない時は、
「黒いの、眠くないのかな?」
そして時々、
「ケムクたち、今日はよく寝るね」
ケムクはもちろん"毛むくじゃら"の略語である。
他人が聞いたらさっぱりわからない二人だけの言葉。そんなものない、というご夫婦は、改めてお互いを見つめ直した方がいい。あ・うんの呼吸じゃないけれど、互いにしか理解できないものがあってこそ、夫婦ないし恋人同士が過ごす時間はより親密な空間となるのだ。
それにしても"もこもこオレンジ"って、黴の生えたオレンジを想像しちゃうな、今更だけど。
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