限りなく厄に近い日・後編


 免許更新のお知らせ葉書が届いた。
 あれー、替えたばっかりなのに。もう5年も経ったっけ? と、逆算してみて、はっと気づいた。 前回更新をすっかり忘れ、一度失効してしまったから、優良ドライバーと同じ5年間ではなく、3年間の更新となってしまったのだった。
 ちょうど定期健診にも行かなければならない時期なので、1日有休をとることにした。当日、まずは病院へ行くと、なんと、休診。この病院、時々院長の都合で突然休みになってしまうから困りものだ。なので、毎回、前日に電話を入れて確認をしていたのだけれど、たまたま忘れていたのだ。 仕方がないので免許の書き換えに向かおうとした時、葉書を家に置いてきてしまったことに気づいた。 家に戻り、葉書を手にし、再び私は駅へと急ぐ。駅前のスピード写真で証明写真を撮り、近所の蕎麦屋で早めのお昼を食べ、電車に乗った。目指すは隣町にある警察署。最寄り駅からは微妙な距離。寒いし、バスに乗った方がよさそうだ。 風が強い。吹きつける冷風に耐えること10分、ようやくバスがやってくる。乗ったらあっという間で、ものの数分で警察署に到着した。
 時刻はお昼ちょっと過ぎ。 警察署の受付へ行くと、
「免許の更新は隣の建物です。でも今はお昼休みなので、午後1時からの受付となります」
 ですってさ・・・・・・。さすがはお役所、きっちりしている(もっと働けよ)。
 せっかく来たのに。あと1時間近くあるじゃあないか! 署内は狭く、ロビーには椅子がお飾り程度に置いてあるだけ。さすがにここに1時間も座っているのは、なんとも居心地悪そうだ。 かといって、周囲には喫茶店はおろか、一休みできそうな場所は全くない。ますます風が強くなってきて、このままだと風邪をひいてしまう。 駅前に戻った方がましだろうと判断し、通りを渡ってバス停へ。つま先まで冷たくなってきたところでようやくバスが到着。
 駅に戻り、目についた喫茶店に飛び込み、コーヒーを頼む。 ほっとしたのもつかの間、すっかり身体が冷えていたので腹がぐるぐると不吉な音を立て始める。わりとこじゃれたお店でも、建物は結構古いらしく、トイレは和式で、窓が開いているおかげで寒いったらありゃしない。 こんな所で長時間ケツを出していたら、よけい腹に悪そうだ。 とっとと更新して、帰ろ!
 ちょっと早いけど、バスを待つ時間も考えて私は店を出た。 時刻表を見ると、バスはしばらく到着しそうにない。仕方なくタクシーを拾い、警察署に舞い戻る。
「建物の前には駐車できないんですよ、すいませんね」
 と、少し手前で降ろされる。 てくてく歩いて更新手続きの受付へ行くと、すでに行列ができている。撮りたての証明写真と葉書、免許証を手にひたすら順番を待つ。 やれやれ、疲れたな、早く終わらせて帰りたい。 ようやく順番が巡ってきて係員に葉書を渡す。すると、
 「あー、読んでないですね」
 なに? そして、とんでもない事実を知らされることになる。更新のお知らせの葉書の裏に、もう一枚からくりがあったことに、私は全く気づかなかったのだ。ぺりぺりと捲って係りのおじさんがひとこと。
「あらら。だめだー」
 そこには、私が更新を受けるべく場所が明記されていた。 最寄の警察署や更新センターではなく、試験場へ行かねばならなかったのだ。 なぜって。前回の『失効』があったからだ。うっかり者がまたうっかりとお知らせを見落としていたというわけだ。
「1時半までに行ってくださいねー」
 そそくさと立ち去ろうとする私の背中に向けて、係員が言った。 あと15分で、どうやって試験場へ辿り着けるというのか!
 結局、せっかくの有休、ひとつとして目的を果たせなかった、というわけだ。 とぼとぼと家路につき、スーパーに立ち寄る。今日の出来事を亭主に話したらさぞバカにするだろうと予見して、亭主の好きなロール・キャベツを 作って少しでも名誉挽回することにした。いつものトマトソース缶は売り切れ。ま、こんなもんだよね、ツイてない日って。 仕方がないのでカットトマトの缶詰を買い、ようやく我が家に戻り、不毛な休日、残された時間をのんびり過ごすことにした。こういう時はおとなしくしているに限る。
 ツイている日には、最後にどんでん返しがあるものだけれど、ツイてない日というのは、とことんツイていないものだ。
 さて、今度こそ綿密に計画をたて、更新に臨んでやろうではないか。今度はゴールド免許&5年間になるのかな? それとも、一度うっかりすると、だめなのかしらね? でもとにかく免許の更新となるとロクなことがないので、無事に書き替えできればそれでもいいか。
 


 


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