作る阿呆に読む阿呆


 今回ばかりは本当に焦った。
 もう何年も定期的に子宮癌検診を行っていて、今までのところ、全て陰性だったけれど、ここ数週間の異変は、あきらかにいつもと違うものだった。
 会社で、とにもかくにも理不尽で腹の立つことがあり、受話器を叩きつけると同時にマウスを放り出した直後、下腹部に痛みが走った。 その後も、断続的に不気味な鈍痛が襲う。
 こりゃまずいぞと、かかりつけの婦人科へ駆け込むと、
「時期的に排卵痛だろう」

 とのこと。 普段はまったくそんなことないんだけれど、ストレスがたまったせいかと、その時は納得した。
  けれど、痛みは治まらず、翌日、今度は出血。
 こりゃてーへんだ! と、慌ててもう一度半休を取り、病院へ駆け込む。触診と、いつもの子宮体癌の検査をしてもらうことにした。
 特に卵巣は腫れていないけれど、排卵による出血でもなさそうだと言う。
 だったら、一体何?
 焦っても結果が出ないことにはわからない。週末、また来て、というので、ひたすら待つ。待つしかない。
 結局、週末は都合がつきそうにないので、週明けの月曜日に結果を聞きに行くことにした。ちょうどマンション全体の排水管清掃の立会いもある。それを理由に1日休みをとることにしたのだけれど、その間、今度はお乳に痛みが走る。
 なんなんだよー、ほんとにっ!
 と、前書きが長くなったけど、そんなわけで、先月末から何度か病院へ足を運んでいた。
 このクリニックはいつもそれほど混んでいるわけでもないのに、結構な時間待たされる。一人一人に時間をかけているからだ。ご丁寧なのはいいのだけれど、待つ側は一秒でも早く結果を聞きたいと逸る気持ちと退屈さで、悶々と時間の過ぎるのを耐えるしかない。
 どういうわけか、ここに来る時に限って、文庫本のひとつも持ってきていない。毎度、今度は本を持ってこようと思うのだけれど、いざとなると忘れてしまう。実はこの病院とは相性が悪いのかもしれない。
 で、仕方なく、待合室に置いてある雑誌を手にとってみるのだけれど、これがまたクソおもしろくもない本ばかり。
 産婦人科なのだから、妊婦さん向けの雑誌が置いてあるのは当然なんだけれど、 『3ヶ月からのマタニティ・ファッション』だとか『会陰切開のすべて』だとか『ベビー・グッズの収納術』だとか、全くもって私の人生には無関係なことを特集されても途方に暮れてしまう。私はともかく、不妊治療をしている方にとっては、あまり気分の良いものではないんじゃないか。
 もうひとつの雑誌も趣旨がよくわからない。
 有名人のパーティの様子だとか、庶民には手の届かないお値段のワインの飲み比べのことだとか、馬鹿らしくて放り投げたくなるような内容。ここまで住む世界が違うと、うらやましくもなんともない。どこの阿呆がこんなくだらない雑誌に1,500円(せんごひゃくえん!!)も払うのだろう。ブルジョアの感覚は、永久に謎だ。
 さて、肝心の検診結果なのだけれど、何ともなかった。出血も腹の鈍痛も乳の痛みも、ぜーんぶストレスが原因。現金なもので、結果オーライとわかってから、この日まで続いていた鈍痛もケロっと治ってしまった。
 病は気から。そしてストレスから。具合が悪くなって駆け込んだ病院で、くだらない雑誌を読まされてストレス倍増なんてのは遠慮したいので、もう少し雑誌の選択にセンスを磨いていただきたいもの。
 そして、女性ばかりの待合室で、居心地悪そうにしている肛門科診療に来たおじさんの為にも、何か用意してあげて下さいな。


 


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