とまどいの夕闇


 会社帰りの電車の中。やれやれ今日も無事に終わったと、私はほっと息をつく。
 しかしまだまだ。これから主婦業が待っている。
 さーて、夕飯は何にしよう。私はすばやく冷蔵庫の食材を頭の中にリストアップし、メニューを考える。
 昨日は魚だったから、肉にしよう。亭主の好きな、ポーク・チャップにするかな。
 駅に着き、いつも行く八百屋さんに立ち寄った。ここは街一番の激安店。お豆腐3丁、油揚げ3袋(6枚)、それぞれ毎日¥100。 もちろん、野菜もフルーツもとっても安い。
 店が休みの前日は見切り品も登場。 1個¥10のブロッコリーや、3パック¥10のえのき茸なんて、もう買うしかない。
 時々、珍しい物も目にする。最近行ったら、緑色の大根のような物があるので、何だろうと思ったら、『夕顔』だった。一体、どうやって食べるんだろう。花しか知らなかった。黄色い韮も見たことがある。これは確か岡山の方の特産だったと思う。
 八百屋さんなのにお刺身もある。脂の乗ったまぐろの切り落としは量もたっぷりで、スーパーで買うよりずっとおいしい(もちろん安い)。

 と、前置きは長くなったけれど、この日はポーク・チャップの付け合せのレタスを買うことにした。お値段は¥150。びっくりするほど安くはない。 レタスを手に取り、私は迷う。もしかしたらスーパーの方が安いかも。けれど、行ってみなければわからないし、時間も時間だし、売り切れなんてこともないとは限らない。
 思い切ってカゴに入れ、レモンと、おばちゃんがサービス品だよ、と差し出した¥100のほうれん草を買って、次なる目的地、いつも行く、これまたとっても安いスーパーへ向かった。
 店に入った途端、本日の特売品の文字が目に飛び込んでくる。
『朝摘みレタス ¥98』
 やっぱりね・・・・・・。なんとなく、予感はしていたのだ。
 買ってしまったものは仕方ないけれど、こういうことがあると、心底がっかりする。 どうも私は勘が鈍いというか、こと食料品に関しては頻繁に悔思いをしている。
 しその葉やきのこなんぞはまだいいけれど、キャベツや大根のように重量のある野菜を持ち歩いた後となると、悔しさも倍増する。
 それもこれも、八百屋さんもスーパーも、どちらも安いからいけないのだ!
 というのは冗談で、新聞の折り込み広告をしっかりチェックすればよいだけの話。けれど、フルタイム働く主婦の平日の朝、そんな余裕はあるはずもないじゃないか。
 だからこれからも、八百屋さんの店内で、私は迷い続けるだろう。
 これは、どっちが安い?
 この季節でさえ、既に外は夕闇に包まれている。時間に余裕はない。
 私は決心する。そしてスーパーに入り、地団駄を踏むのだ、きっと。

 ところで、皆様はおいしいレタスの選び方をご存知だろうか。
 根っこの部分が白くて、ずっしりと重いものが良いらしいです。覚えておいてね。
 しかしまあ、本当に前置きの長い文章になっちゃったな。


 


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