水着でポーズ!


 それはまだ、私が麗しき女子大生だった頃のこと。
 広告代理店に勤める友人から、アルバイトの話があった。
 聞けば、CMのカメラテストだという。モデルさんで本番を撮る前にカメラ枠や照明を決めるために必要な、要は偽モデルなのだそうだ。
 バイト料は一万円。テスト自体は全部で2時間程度。あとは控え室で休んでいてくれてかまわないとのこと。
 当時、ウェイトレスの自給でせいぜい\800がいいとこ。二つ返事でOKすると、数日後、彼女の上司から連絡があった。
「水着、持ってきて下さいね」
「は? 水着って、なぜです?」
「あー、聞いてませんでした? 入浴剤のCMなんですよ。だから、風呂に入ってもらいます」
 いくらテストとはいえ、カメラマンやら何やら大勢の前で水着ですと?!
 困惑している私に、彼は、
「一万円、保障します」
 ただ風呂に入るだけでそのバイト料はおいしい。でも、他人様の目に晒せるようなスタイルじゃあ・・・・・・。
 あー、もういいや、決めた!
「わかりました、水着、持っていきます!」
当日、私は朝から某撮影スタジオへ向かった。若い女性スタッフが控え室へ案内してくれ、私はそこで水着に着替え、用意されていたバスローブを羽織って出番を待った。
 ほどなく呼ばれて撮影所に行くと、結構高い位置に大きな風呂が設置されている 備え付けの階段を上がり、風呂に身を沈める。お湯はちょうどよい湯加減で気持ちが良い。
「はい、こっち向いて」
「もうちょっと右へずれて」
「今度は少しだけ前へ」
 スタッフの言う通り、右に左へと動く。
「はい、オッケー!」
 思ったよりもあっさりと終わった。
「んじゃ、またあとで」
 と監督さん。このCM、入浴剤を入れた風呂に若い女性、おっさん、母と幼子、という3パターンを撮るのだそう。それぞれにテストをするので、次の準備が整うまで待て、ということだ。
 控え室に戻ってシャワーを浴び、バスローブにくるまって待っていると、本番のモデルさんが入ってきた。目がぱっちりのきれいな女の子。続いておばさんと子供。皆、いかにもモデルっぽいオーラが漂っている。ただ、おっさん役だけは、友人の会社の部長さんだか誰だかが演じるらしい。経費削減とはいえ、ご苦労なこった。
 結局、予定時間よりオーバーして、すっかり日も暮れた頃、ようやく私はお役放免となった。
 なかなか貴重な体験をさせてもらったのでいいんだけれど、やはり残業代はつかないようで、後日、友人から、きっかり一万円を手渡された。入浴剤くらいおまけでくれてもいいのに。
 で、どんなCMに仕上がったかというと、実は、一度も放映されたものを見ることができなかったのだ。TV番組と違って、録画予約できるものでもなし、だいたいビデオを持っている学生なんて、当時はいるはずもなかった。
 幻のCM。幻の入浴剤。
 ただひとつの現実だった一万円も、あっという間に消えていった。


 


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