ルポメ、発見!


「ルポメは存在する!」
「しない!」
 ここ半年ほど、何度も夫婦間で交わされていた会話である。
 ある夕刻、一人駅前の商店街を歩いていた私は、初めてその驚くべき姿を目にした。
 その小型犬は、どこからどう見ても、ポメラニアン。 なのに、柄が入っている。我が家のルーと同じ、白地に茶色のブチである。もっとじっくり見たかったけれど、飼い主さんにリードを引かれ、人ごみに消えて行ってしまった。
 珍しい柄だと思ったので、帰ってから亭主に報告すると、
「そんなポメラニアンはいない!」
 と断言。 亭主の母方の一族は、代々ポメラニアンを飼っている。亭主は、いわばポメラニアンのエキスパートの中で育ったのだ。けれど、私は確かに見たのだ。ブチ柄のポメラニアンを。
 以来、この幻の犬をルーと同じ柄のポメラニアンということで、『ルポメ』と呼ぶことにした。
 数ヵ月後、会社の帰り、再び私は出会った。 今度は駅の反対側、大型スーパーの前のベンチに、飼い主さんと共に座っている。おそらく亭主は帰りの電車の中だろう。間に合うか・・・・・・。 私は急いでメールを打ち、亭主がルポメを確認してくれることを祈りつつ、その場を立ち去った。
 そして、帰ってきた亭主は、
「いなかったよ。やっぱりお前の妄想だ」
 せっかくのチャンスだったのに。ついていない。けれど、いつか真実はあきらかになる。
 写真に撮ればいいじゃないか、と思われるかもしれない。 けれど、1、2回目とも、まだ私がカメラ付携帯を持っていなかった頃のことなんである。さる5月(だったかな?)、ようやく携帯をカメラ付に代えた。 これでいつだってルポメを激写できるぞ! とはりきっていたものの、あれ以来、ふっつりとルポメの姿を見かけなくなってしまった。亭主はますます、私の妄想に違いないとからかうし、先月、札幌に行った際、亭主の祖母、叔母一家にルポメの話をすると、
「そんなポメラニアン、見たことない」
 と、お墨付きまでもらってしまった。
 けれど、ルポメは存在するのだ!
 そして、最後に見かけてからどれくらい経ったのか、ついに先日、私の祈りは通じた。会社の帰り、立ち寄った八百屋さん。店の前に立つ男性の足元に、紛れもない、あのルポメが座っている! 私は震える手で携帯を取り出し、撮影体制を整える。ピントを合わせようとしても、飼い主さんに気づかれないように撮るのは難しい。このチャンスを逃すわけにはいかない。 意を決して、私は飼い主さんに話しかけた。
「あの、この犬、ポメラニアンですよね?」
「はい、そうです」
 やった! やっぱり正真正銘のポメラニアンだったのだ!
「写真を撮らせていただいてもよろしいでしょうか? この柄のポメラニアンが存在するのを、どうしても信じてもらえないもので」
 飼い主さんは笑いながら承諾してくれた。
 早速、亭主に証拠写真を送信。今度こそひれ伏すであろう。
 やがて、家に戻った亭主は言った。
「PCで合成したな」
 だめだ、こりゃ。こうなったらもう、本物を見てもらうしかない。狭い街だし、いつの日か、亭主も会えるだろう。その日まで、私は叫び続ける。
 ルポメは存在する!!


 


TOPHOMENEXT