つるむらさき記念日


 先日、友人を招いて鍋をやろうという日。
 箸休めにほうれん草か何か青菜のカラシ和えが食べたい、と亭主。そんなものはお安いご用。本日のメニューに必要な材料を頭に入れ、私はスーパーに向かった。
 鍋の材料を一通りカゴに放り込み、あとはサラダ用の野菜。そして、リクエストのほうれん草・・・・・・。
 むむっ。
 高い。一束\298。昨日、八百屋さんで見た時は\198だった。ケチと言われようがこれを買うには抵抗がある。他の青菜はどうだ? 小松菜も同じ値段。水菜は鍋にいれるから何か他のもの・・・・・・。
 となると『つるむらさき』しかない。お値段、\99。手頃だ。どこかで食べたことはあるかもしれないけれど、家でこれを調理したことはない。茎もちょっと太め、葉っぱも厚い。でも、味はたいして変わらないだろう。青菜は、青菜だ。
 家に帰り、材料を袋から取り出していると、亭主がつるむらさきの袋を見、
「これ、どうするの?」
「ほうれん草も小松菜も、高かったからさ、これでカラシ和え作ってみるよ」
「つるむらさきって、結構、苦いぞ。おひたしなんかには、絶対、合わない!」
 そうなのか? でもカラシや醤油でなんとかごまかせるに違いない。と、思ったのが甘かった。湯がいたつるむらさきを食べやすい大きさに切り、カラシと醤油、お酢でさっと和える。あとで調整するので、最初はちょっと控えめに味付け。
 さて、どーだ! と味見をした瞬間、後悔が口いっぱいに広がった。
 苦いというより、土臭い。 私は焦った。亭主に馬鹿にされてはならぬ。再び調味料を加え、もみもみ。 これでどうだ。少しはまともになったか?
 しかし・・・・・・まずい!
 食べられないほどではないけれど、これはとてもお客様には出せない。
「ほらみろ」
 と、亭主。
「ちょっとくらい高くてもよかったじゃないか。あーあ、カラシ和え、食べたかったな」
 とふてくされる。ぐうの音も出ず、私はへらへらと笑ってごまかすしかなかった。
 その日はさんざんからかわれ、俵万智さん風の句まで詠まれた。
「安い! と君が言ったから 8月20日は つるむらさき記念日」
 それからも、ほうれん草のバター炒めを出せば、
「よっぽどつるむらさきが気に入ったんだな」
 と、にやにや。 買い物に行けば、
「つるむらさきは買わなくていいのか?」
 とにもかくにも青い葉っぱを見ると、つるむらさき、つるむらさきと言って、私をからかう。
 以前、私が宣伝用の飛行船をUFOと間違え、大騒ぎした時にも、その後、しばらくの間、
「おい、UFOだぞ!」
 と、飛行船を指差してはうれしそうに笑っていた。
 そんなわけで、我が家では今、つるむらさきが旬。
 \200をケチったがためにケチがついた。しばらくは、毎日がつるむらさき記念日だ。


 


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