ジャンク・フーズ・ジェネレーション


 引き続き、食べ物の話。
 ハンバーガーというものを初めて食べたのは、小学校の頃、故郷の街に出来た『モス・バーガー』だった。
 白塗りの壁の洒落た店構え、紙に包まれた熱々のバーガーが珍しく、しょっちゅう食べに行ったものだ。
 今考えると馬鹿馬鹿しいのだけれど、喫茶店と同様、学校の先生に見つかったら怒られるだろうと、こそこそ食べるのもスリルがあって楽しかった。 そう、ハンバーガーは背徳の味でもあった。
 けれども、中学生になり、東京に転校した友人を訪ねて行った時、さらなるカルチャー・ショックを受けることになる。
 右も左もわからない東京の街を、彼女は既に慣れた様子で案内してくれた。あれは、どこの街だったのか。彼女の家が麻布だったので、たぶん渋谷だったと思うのだけれど、私は、彼女に導かれるまま、生まれて初めて、マクドナルドのカウンターに並んだ。
 差し出されたプラスチックのトレイに乗ったハンバーガーとポテト、そしてコーラ。 それらを手に再び外へ出た友人は、おもむろに大きなゴミ箱の上にそれを置き、ハンバーガーの紙をめくった。
 外で、しかも立ったまま食べるなんて!!
 季節は夏の初めだったと思う。日が暮れ始めた都会の街は、ますます賑わい、心地よい風と雑踏の中、初めて頬張るマクドナルド・ハンバーガーは、この上なく美味しいものだった。これこそが、都会の味だと確信した。

 月日は流れて上京し、ある時故郷からやってきた父と一緒にマクドナルドに入った。 確か、あまり時間がなく、周囲にめぼしいレストランも何もなかったので、仕方なく入ったのだと思う。 フィレオフィッシュを口にした父はひとこと。
「まずい」
 戦後の貧しい食生活を体験している世代に限って、ジャンク・フードを毛嫌いする。コンビニで売っていたツナマヨのおにぎりに至っては、顔をしかめて
「気持ち悪い!」
 と言っていた。元々セロファンに包まれたおにぎりに抵抗がある上に、マヨネーズと白飯の組み合わせには、どうにも納得できないらしい。
 栄養バランスを考えて作られた、心のこもった料理が一番おいしいし、身体にも良いのはわかっているけれど、時々、無性に食べたくなるものがある。
 ハンバーガーだったり、レトルトのカレーだったり、インスタント・ラーメンだったり、合成着色料のたっぷり入った駄菓子だったり。
 毎日食べてりゃ、健康にも悪影響を及ぼすだろうけれど、たまには懐かしい味を楽しむのもいいだろう。それらは、まぎれもない、私たちが生きてきた時代の味なのである。
 ただし、当然のことなんだろうけれど、我らジャンク・フーズ・ジェネレーションの平均寿命は、現在よりもぐっと下がるんだそうだ。


 


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