されど愛しきアナログ盤



 当分、引越しするようなことはないので、さしつまって考える必要もないだろうけれど、ちょっとした模様替えの時にも悩まされるのがレコードのことである。
 引越しの度に人にあげたり売ったりしたので、元々持っていた数よりだいぶ減ってはいる。それでも150枚くらいはあるだろうか。 重いし、場所はとるし、湿気の多い所には置けないし、うっかりするとすぐに傷がつく。CD世代の今の若者たちからすれば、なぜそんな骨董品としての価値すらないものをいつまでも後生大事にとっておくのか、理解できないことだろう。確かに特別なものを除いてほとんどがCD化されているので、買いなおすか、MDにおとせばいいじゃないか、とも思う。 でも、私はただ単純にレコードで音楽を聴くのが好きなのだ。針が盤に下りた時の、「ブツッ」という音がないと、気分が乗らないのである。 そして、これらは少女時代のお小遣い、お年玉そしてアルバイト料を注ぎ込んだ汗と涙の結晶でもあるのだ。これは、決して大げさな表現ではない。1枚2,500円のLP盤は、学生しかも中学・高校生にとってはちょっとした金額だ。
 ならば借りればいいじゃないか、と思うでしょ? でも当時、田舎町にはレンタル・レコード屋すらなかったし、周りに洋楽を聴いている友人も皆無と言ってよかった。おまけに優れたバンドの情報も入ってこない。電波の悪いラジオからかろうじて聴き取ったお気に入りの曲やミュージック・ライフ(懐かしいなあ)他、音楽雑誌のグラビアを見て、かっこいいな、と思ったバンド、そしてレコード評を頼りに、あとは勘で買うしかない。少ない小遣いをやりくりして手に入れたLPなのに、ハズレも少なくはなかった。
 それでも音楽は私の生活に欠かせなかった。毎日がロックン・ロール漬けだった。少しずつ増えていくレコードが、ただひとつ、私の誇りだったのだ。
 やがて年を重ねるごとに、音楽は少しずつの私の生活から、そして人生からも遠ざかっていった。ロックン・ロールよりも魅力あふれるものがこの世にはあると、知ってしまったからなのか、ただ単に、もう若くないからなのか、わからない。
 たまに、あの「ブツッ」が聞きたくなる。そこから始まる懐かしいポップスのメロディが頭から離れなくなる。そんな時はテレビを消して、LP盤をそっとターン・テーブルに載せる。思えば、レコードを聴くという行為は、腫れ物を扱うようなものだった。若者たちがなんでも簡単に流行りものに買い換えてしまうのは、この「大事に扱わないといけないもの」=レコードを知らないからだ、と私は勝手に思ってしまっている。
 いつかプレイヤーも針もなくなって、レコードそのものが姿を消してしまう日がくるのだろうかと危惧していたのだけれど、アナログ盤愛好者はまだまだ根強く残っているらしく、ちょっと安心している今日この頃。
 そういえばレコード針も馬鹿みたいに高いんだよ。若者諸君、知ってる?

 
 

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