免許失効
父の葬儀が終り一段落した週末、数日間気にもとめていられなかった郵便ポストを開けてみた。
どこから聞きつけるのか、すでに香典返しの案内や仏壇のパンフレットがみっしりと入っている。
その中に紛れていた一通の葉書。
『運転免許失効のお知らせ』
父のかな。でもお役所仕事にしちゃ、随分手際がいい・・・・・・と思っていたら、なんと、私宛である。
途端に血の気が引き、疲れも手伝ってあわや倒れそうになった。
誕生日は2月。すでに3ヶ月近くが経過していることに、まったく気づいていなかった。
こうなったら慌ててもしかたがない。6ヶ月までは普通の更新と同じように手続きができることを確かめてから、住民票その他書類をそろえ始めた。
私と同じように更新期限を忘れてしまうことを『うっかり失効』という。
手続きそのものは更新と同じとはいえ、失効の場合は所轄の警察庁ではなく、試験場まで行かなければならない。
東京の場合、鮫洲、江東、府中のいずれかとなる。当然ウィーク・デイしか手続きができないので、
会社を休むことにした。
かくして小雨そぼ降る中、江東試験場へ向かった。
目の検査、写真、その他。
「はい、これを持って5番の窓口へ行って」
「この通りに印紙を貼って、7番へ行って」
当たり前なんだろうけれど、ものすごく手際がいい。悪く言えば、至極事務的である。
最後に講習。以前、伊東で更新した時は、ビデオをちょっと見るだけだったけれど、
場所によって違うらしい。1時間みっちりと講習を受けなければならない。
『失効』した面々は3人。80人は座れるであろう教室にたったの3人である。
開始間もなく、ビデオ観賞が始まる。25分。これくらいないと、講師の側だって、間がもつまい。
タイトルはずばり、
『すべてを奪う交通事故』
タイトルだけで内容が想像できちゃうだろうけど、本当にその通り。
会社では昇進が約束され、プライベートでは婚約者とモデルハウスを見に行ったりと、順風満帆な青年が主人公。
2組のカップルでの小旅行の帰りに事故を起こし、友人は亡くなり、その彼女は意識不明、婚約者は顔に生涯消えない傷を持つことになる。
示談も上手くいかず、父親の遺してくれた家を手放し、会社は辞めざるを得ず、婚約者にふられ、最後には交通刑務所に8ヶ月の服役。
とまあ、惨憺たる結末。
んもー、怖いですね、本当に。運転なんて、するもんじゃないです。
え、免許持ってるのに? って思うでしょう。
運転していれば、うっかり失効なんてするはずがないんです。そうです。私はペーパー・ドライバー。
免許はゴールド・・・・・・のはずなのに、なぜか新しい免許証は普通のブルーのラインが入ったものになっていた。
うっかり者ですから、仕方ないです。ぐうの音も出ません。
そうそう、最近、例のビデオで悲劇の青年を演じた男らしき人物を洗濯機のCMで見たんだけど、本人かしら?
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