すすきの散策隊
「グリーン・ホテル」
「はい」
ジンギスカンをお腹一杯に詰め込んで、あとはホテルに帰って寝るだけとなり、タクシーに乗り込んだ。札幌は3度目なれど、いつも祖父母や亭主にまかせっきりなので、地理には不案内である。
どこをどう走っているのか、気にもしなかった。
そして、亭主にも義弟にも生まれた土地には違いないけれど、長く住んだわけではない。つまり乗客の誰一人、気づかなかったのだ。ホテル近辺であるはずもない、繁華街にさしかかるまで。
「すいません、どこへ向かっているんですか?」
慌てて亭主がドライバーに尋ねる。やけに時間がかかるなと、さすがに私も思っていたところだ。
「グランド・ホテル・・・・・・ですよね?」
「いえ、グリーン・ホテルです。真駒内の・・・・・・」
絶句する運転手さん。
「ホテルから百景園(ジンギスカン食べたとこ)まではいくらかかりました?」
どうやら、そのお値段で戻ってくれるらしい。親切だ。
その時、私の目にある看板が飛び込んできた。
『すすきの交番』
そう、『警視庁24時』なんかで有名なあの人情あふれる交番である。
祖父母の生活時間にあわせ、早めの夕食だったので、まだ夜は始まったばかり。
せっかく来たんだ、ここで飲んでこ! ということになった。
土曜日の夜とあって、賑やかなことこの上ない。けれど歌舞伎町や渋谷とは全く違った雰囲気。
強いて言えば、北の大地ならではのおおらかさが、そこかしこに感じられるのだ。
さっそく『すすきの交番』をひやかしてみる。
「居酒屋さん、どこがいいですかね」
一目瞭然、居酒屋なんぞ、いくらだってあるのに、あえて聞いてみた。旅の恥はこの際、かき捨てである。
「いやもう、この辺ならどこにでもありますよ」
TVでも見覚えのある顔のおまわりさんが、面倒臭がる様子もなく答えてくれる。
お礼を言って、すぐ側のビルにある炉辺焼き屋さんに入った。
とてもおつまみなど入る余地もないほど膨らんだお腹に、なまこ酢と店主がすすめてくれたまぐろの尾の身をさらに詰め込む。
半分も食べれずにギブ・アップ。残りは持ち帰りにしてもらった。
その後、ストリート・ミュージシャンの歌を聴き、タクシーでようやくホテルにご帰還。
思いがけないミスも楽しい一夜に繋がった。
そういえば、真駒内駅からグリーン・ホテルへ行く際の運転手さんは、なんと、メーターを立てるのを忘れていたっけ。
札幌のタクシー・ドライバーは、おっちょこちょいな人が多いのかもしれないな、と自分を棚に上げて思ってしまうのであった。
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