花火日和



 毎年8月10日に行われる伊東の海上花火大会に行ってきた 3日間に亘る按針祭のフィナーレを飾るビッグ・イベントだ。
 子供の頃から『花火』といえば按針祭だったので、他の花火大会なんか目もくれない。午後8時から9時までの1時間、間髪入れずに打ち上げられるド迫力の1万発にかなうものなどないと思っている。
 ところがこの按針祭、何があろうと8月8日から10日と決まっている。さすがに花火は雨天順延になるけれど、 曜日はおかまいなしなので、故郷を離れ、東京で働いている私なんぞは今年のように土曜日に当たらなければ 観ることのできない代物だ。
 というわけで、なんと7年ぶりの花火見物となった。
 数年前からこの海上花火を見るために、世界クルーズで知られる豪華客船『飛鳥』が伊東沖に停泊するようになった。小さなビーチに巨大なクルーズ船がでんと構える光景はなんともゴーヂャスだ。
 当日、昼過ぎに東京を出て伊東へ向かう。友人の家でお茶をごちそうになり、同級生のお店で札幌の祖父母に送る干物を頼み(ビールとしったかをもらった!)、あとはすることもないので7時前からビーチに席を陣取る。 しったかをつまみにビールを飲みながら、少しずつ暗くなってゆく空を見上げる。 ライトアップされた飛鳥が一際映え、花火の邪魔にならないかな、とちょっと不安になったりする。
 今日は絶好の花火日和。晴天かつ適度に風が吹く。まったく風のない状態では、煙が流れないまま空が曇ってしまい、せっかくの花火が綺麗に見えないのだ。
 やがて人影もまばらだった砂浜が見物客で埋め尽くされ、カウントダウンと共に打ち上げ開始。 ドスンとお腹に音が響き、夜空に大輪の花が咲き乱れる。今年は5〜6箇所に打ち上げ場所を設置しているようで、右から左から絶えず花火が上がり、見物する側も忙しい。 あちこちで歓声があがり、拍手が沸き起こる。
 色々調べたことがあるけれど、1時間に1万発というのはなかなかない。これだけ短時間集中型の花火大会は全国広しと言えどもここくらいではないか。一瞬で消え去るからこそ美しい。1時間、息つく暇なく打ち上がるからこそ、こんなに迫力ある花火大会となるのだ。
 ウィリアム・アダムスもこの夜ばかりはあの世から舞い降りて、花火を楽しんでいるかもしれない。 8月10日は彼にとっても記念日。彼が構築した世界初の洋式帆船が進水した日。帆船の代わりに、この夜の海には飛鳥がいる。船も進化したものだなと、花火よりもそちらの方が彼は気になるだろうか。
 さて、終盤。海から何発も火が噴き出し、砂浜がまばゆい光に包まれるほど大量の花火が打ち上がる。 再び闇に包まれると、見物客がぼつぼつと腰を上げ始めた。
 あれ? ナイアガラは? この花火大会は例年、ビーチに張り巡らされた長ーいナイアガラで終わるんだけれど?
 後で聞いたら、去年からなくなったんだと。中盤、端っこで小さなナイアガラやってたな、そういえば。『ホテルえびな』の前あたりで・・・・・・。これも初めて知ったんだけど、例年のナイアガラはえびなの提供だったらしい。自分とこの前だけでやるなんて・・・けち!
 ケチと言えば、『飛鳥』は観るだけで何の寄付もしないんだろうか? スターマイン一発くらい寄付してくれてもいいのに。お金持ちなんだからさ。



 
 

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