去りゆく夏の日



 秋になると風邪をひく。
 なぜならいつまでも私は半袖に薄手のスカートといういでだちで外出するからだ。
 道ゆく人々が長袖やカーディガンを羽織るようになっても、私はぐずぐずと夏の服装から抜け出せないでいる。
 どうしてかというと、ひとつは、季節が変わる度の衣類の入れ替えが面倒だから。そして、もうひとつ。夏が終わってしまったということを、どうにも認めたくないからである。
 スキー&スノー・ボードに命を燃やしている人々には申し訳ないけれど、私は寒い季節が大嫌いなのだ。
 けれど確実に、四季が巡るこの国には冬将軍がやってくる。
 我が家では冬場しか浴槽にお湯をはらない。夏はシャワーのみで済ます。バス・ルームから出た時、あれ、ちょっと涼しいかな、と思い始めた時が、私にとっての秋の始まりである。
 そして、猫達が我々の寝床を蹂躙し、タオルケットでは明け方寒く感じるようになってきたらもう、冬はすぐそこまで来ていることを認識せざるを得ない。
 ああ、いいかげん、冬支度をしなければならないんだな、と妙にせつない気持ちになる。
 夏気分を切り換えるのは至難の業なのだ。
 さて、こうなるとビーチ・リゾートが恋しくなり、私は旅行雑誌を手放せなくなる。暑い日差しをもう一度、この肌に吸いこませたい。 けれど冬の間じゅう、南の島に逃避行しているわけにはいかない。せいぜい、1週間てところだろう。 それが日本で暮らす、いちサラリー・マン家庭の宿命なのだ。
 だったら、冬の間は動物たちのように冬眠して過ごせればいいのにな、と本気で思う。
 夏だからといって、特別にいいことがあるわけでもないし、給料が上がるわけでもない。 でも、私にとっては夏である、というだけでも「いいこと」のひとつに違いないのだ。
 はやく時が過ぎればいい。梅雨が明けると現れる、あのからっとした夏空を仰ぎたい。冬の間、私は切実にそう思いながら暮らしている。
 
 さて、サマー・ジャンボも当たらなかったことだし、今夜はサンマでも焼きますか。



 
 

Back Number IndexHOMENEXT