Welcome to cockroach house!



 虫の嫌いな人は読まない方がよいと思います。あまり気持ちのいい話ではありませんので。
 十年以上前だけれど、築ウン十年というオンボロ木造アパートに住んでいたことがある。ボロだけれど駅のすぐ前という立地が便利だったので我慢していたが、ある時、1Fにテナントとして入っていた寿司屋が移転することになった。 ほどなく原状回復工事が始まり、それが終わった途端、狭いながらも楽しい我が家はゴキブリの巣と化してしまった。
 そう、寿司屋からこぞって引っ越してきたわけである。キッチン収納の扉を開ければ2〜3匹のゴキブリがささーっと逃げていく、という場面に毎日のように出くわすこととなった。
 私はゴキブリなんぞ怖いとも何とも思わない。実家は古く、客商売をしていたので、食べ物を狙ったゴキブリが日常茶飯事至るところに出現する、といった環境で育ったため、素手でも平気で潰せるのだ。
 が、いくら怖くないと言ったって、こんな不衛生極まりない虫を放っておくわけにもいかない。仕方なくゴキブリホイホイを買ってきた。さっそくひとつ組み立て、一晩、キッチンに置いてみる。
 そして翌朝、中を覗いて、思わずのけぞってしまった。大小のゴキブリで一面埋めつくされ、中は真っ黒である。 あまりにも見事な捕獲っぷりなので、しばらく取っておき、遊びにくる友人たちにほれほれと見せつけ、さんざん嫌がらせをした。
 時は流れて、現在住むマンションでのこと。半年ほど前、真下の部屋(この部屋の主は日本人なら誰もが知ってる超有名人)で、内装工事が行われることになった。それを聞いた時から嫌な予感はしていたのだ。工事が終わると、それ見たことか、下から、一斉にゴキブリが上がってきてしまった。 オンボロ・アパートの悪夢再び、である。
 片っ端から潰してやりたいところだが、こちらも忙しい身。一日中奴らを追っかけまわしているわけにはいかない。 猫が食べたりする前にと、ゴキブリホイホイを買い、3箇所に設置した。 仕掛けて1時間後、さっそく覗いてみる。流しの下の扉を開けた途端、驚いたゴキがホイホイに逃げこんだ。ははは、馬鹿だー! Welcome to cockroach house!
 その日から、朝晩のゴキブリ・チェックが欠かせなくなった。一匹でも増えていると思わずほくそえんでしまう。他人が見たらかなり奇妙な光景だろう。ゴキブリホイホイを覗きこんで、楽しそうに笑っているんだから。
 けれど、一面を埋めつくすほどは侵略されていなかったようで、日が経つにつれて新顔のゴキブリも引っかからなくなってきた。
「それだけ少なかったってことなんだから、喜ぶべきことじゃないか」
 と主人は言うけれど、なんだかつまらない。
 ゴキブリというのは案外、頭が良い。ティッシュを抜き取る音を覚えると、その瞬間、そそくさと逃げるようになった。 さすがは恐竜が地上を濶歩している頃から生き残ってきた種族である。
 などと感心している場合ではなく、見つけたら怖がっていないで勇気を出して捕獲しましょうね。なんたって、不潔ですから。



 
 

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