紫の煙が似合う街



『紫の煙』と言えば、一般的には『コカイン』を表すけれど、ここでは普通の煙草のことを指します。 いや、ちょっとタイトルに使いたかっただけなんですけど・・・・・・。
 嫌煙家の皆様には言いにくいことなのだけれど、私はスモーカーである。もちろん、いつもいつも止めようとは思っている。でもその努力をしているかと言われれば、ぐうの音も出ない。けれど、煙草は百害あって一利なし、とは決して思えない。心をリラックスさせるには一番手っ取り早いものだし、お通じも良くなるし、コーヒーだってずっとおいしく感じる。
 とはいえ、間接的に煙を吸っているのであろうノン・スモーカーの方々からすれば迷惑この上ないだろう。 スモーカーを代表してお詫び申し上げます。
 今回、お叱りを承知で煙草のことを取り上げたのは、一にも二にも、ニューヨークの飲食店での喫煙が全面的に禁止となることを知ったからだ。
 10年程前、初めてニューヨークへ行った頃はまだ、ハード・ロック・カフェのギター・バーでは煙草が吸えた。その3年後には2Fの小さなバー・カウンターだけが喫煙エリアとなり、かなりがっかりしたものだ。
 そして今度はいかに小さなカウンターでも「飲食する場所」での喫煙がご法度になるという。
 ああ、なんてこと。
 ニューヨークのちょいと粋なバーで、グラスを傾けながら煙草の煙をくゆらすことは、もう出来ないのだ。
 重いドアを開けた瞬間、薄暗い店内にひしめく人々の周りを取り囲む、あの濃密な空気。様々な人種の体臭が交じり合い、紫の煙がそれに溶け込んでゆく。そんな俗悪な雰囲気が私はたまらなく好きだったのだ。
 そう、“煙草が吸えない”、という事実を嘆いているわけではない。私は、どんどんクリーンになってゆく犯罪都市ニューヨークに戸惑いを感じているのだ。
 だってあの街に“健康的なイメージ”は似合わない。
 たとえば、こんな言葉がある。
「ニューヨークには最低のものがあるからこそ、最高のものが存在する」
 ニューヨークで生まれ育ったミュージシャンが愛する街を簡潔に表した、これぞ名言だと思う。

 さて、年末初めてタイ(プーケット)へ行くわけだけれども、つい最近、こちらさんも公共の場所はすべて禁煙となったらしい。おまけに日本でも増税が可決されてしまった。あろうことか、発泡酒まで!
 そんなわけで、思わずため息のひとつも漏らしたくなる。ため息をつくと、なぜか煙草が吸いたくなる。



 
 

Back Number IndexHOMENEXT