いつかは箱根路



 今年のお正月休みに海外へ出かけた人数は史上最多だそうで、私もその1人である。一般的なサラリーマンにとっては9連休という願ってもない長期休暇。たとえ高くついても海外で年を越そうという人も多くて当然の結果だろう。
 できれば9日間みっちりゆっくり旅をしたいところだが、そうは問屋が卸さない。問題は予算である。ただでさえ料金設定の高い年末年始、東南アジア5日間エコノミー・プランが私たち夫婦の出せるぎりぎりのラインだった。
 そして、もうひとつ理由があった。それは、1月2日〜3日に行われる『箱根駅伝』をどうしても見たかったのだ。 去年見逃したので、今年はとても楽しみにしていたお正月の風物詩。これを見ずして正月が来た気がしないという日本人も多いことだろう。
 プーケットから戻った翌早朝。普段、会社へ行く時より早い午前6:30に目覚ましをかけ、コーヒーを煎れ、準備万端。 あとはこたつでゆっくり駅伝鑑賞である。
 ここ数年、亭主の母校がシード権をとれず、出場していないので、特にどの大学を応援するわけではない。 強いて言えばランナー全員に「がんばれ!」とエールを贈っている。
 プロのような器用さもなく、加減というものがまだわからない学生ランナーたちの、あまりにも向こう見ずで、一途な走りっぷりは、見ていて胸にじーんと響くものがある。
 中継地点で待つ仲間に、無事、襷を渡した途端、倒れこむランナーは少なくない。本調子が出ずに、走り終えた後悔し涙にむせぶ者もいる。
 事実、この箱根駅伝が原因で走るのをあきらめた者も多いのだ。
 走者の神が棲むという箱根の山は、若い彼らたちにとってあまりにも過酷で、恐るべき存在なのである。だからこそ、征服したランナーの喜びは計り知れない。そして、それを見守る者たちにも同じ想いを分け与えてくれるのだ。
 人はこの箱根駅伝に人生の縮図を見ているのかもしれない。山あり谷あり、倒れることもある。時には絶望があり、けれど至上の喜びが待ち受ける。
 今年はすべての出場校の襷が途切れることなくゴールの大手町へ戻ってきた。皆、よくがんばった、がんばった。思うような結果を残せなくとも、箱根を走ったことを、どうか誇りに思って、これからの長い人生を生きていって欲しいと思う。
 一度、生でこの箱根駅伝を見てみたいと思っている。できれば箱根に宿をとってゆっくり温泉につかった後、路上で旗を振って彼らの活躍をこの目に焼き付けたい。 いつか年をとって、混雑する年末の旅行はちょっと・・・と思うようになったなら、ぜひ実現してみようと思う。というか、近い将来実現しそうな気もするんですけど。



 
 

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