ザ・リフォーム〜涙の決心



 こんなことは買う前からしっかり調べておくべきだったのだ。
 見た目は美しいフローリングだった。そう、あくまでも『見た目』は。考えてみれば売る側だって必死なのだから、ワックスくらいはかけてあったろうし、照明を落としてボロさが目立たないよう、工夫していたはずである。
 でも、買ってしまったものはどうしようもない。ころころと騙されて、生涯、一番高い買い物になってしまったのが今のマンションである。
 細かい所を言い出すときりがないので、今回は話題をフローリングの床に限定する。集合住宅というものは、いろいろとやかましい規律やしきたりがあるもので、そのへんを上手くやっていかないことには快適な暮しはないに等しい。幸い、住み始めて間もなく親しくなったすぐ下の部屋の奥さんは、世話好きな方で、猫トイレの砂の捨て方やら何やら、こまごまと教えてくれた。
 ただ、彼女、良い人なのだけれど、顔を合わせると3回に1回は我が家の床がいかに古く、粗悪な素材を使っているかを延々と語るのだ。前の住人にも不動産会社にも、どれだけ騒音が下の階に響くかを訴えてきたのだけれど、無視され続けてきたと言う。
 そんなこと言われても、共稼ぎの私たちが部屋にいる時間なんて、そうは多くないし、毎夜、うさぎ跳びをしているわけでもない。気の毒だとは思いつつ、ここ4年間、笑ってごまかしてきた。
 けれど先日、彼女もいよいよ更年期障害がひどくなってしまったと聞いて、リフォームを考えなくてはならんかなと思い始めた。というより、会う度に床の話をされるのにも疲れるし、自分の家の中を歩くのに気を遣うのも馬鹿らしくなってきたのだ。
 こうなると決心が早いのは主人の方で、私も渋々承諾せざるを得なくなった。それでもやはり、他人の快適な生活のためだけに金を払うなんて納得がいかない。 そこで、私はひとつだけ条件を出した。
 これまで独立型だったキッチンとリビングの壁に穴を開けて、カウンターを作ることだ。 これならお客さんを呼んでも、料理をしながら話が出来る。
 ということでリビング、キッチン、そして洗面所周りの床の張替え及び壁ぶち抜き計画が始まったのである。
 さて、まずは業者をピックアップして見積りをとらねば。そのためには一度、部屋に来てもらわなくてはならないけれど、もちろん土日以外は無理である。同じ日に何社も呼んで鉢合わせるのも具合が悪い。てなわけで、毎週毎週、入れ替わりで業者が我が家にやってきた。
 亭主は以前、建築資材の会社に勤めていたことがあるので、ここは私の出る幕ではない。専門用語を聞いていてもさっぱりわからないので、お茶を出したら後はじっと座ってぼけっとしているだけである。実際私が口を開いたのは、カウンターの大きさを決める時だけだった。
 7月から始まったこの計画、ようやく業者も決定し、あとは着工を待つばかりとなった。床なんぞどうでもいいけれど、昔からの念願だったカウンター・キッチンに料理を出す日が、今からとっても楽しみである。



 

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