まずいけどうまいもの



 リフォーム真っ最中の週末。さて、お昼ご飯はどうしよう。
 キッチン台のカバーが外され、簡単なものなら用意できるようにはなったけれど、職人さんたちがコンビニのお弁当を食べている横で料理をおっぱじめるのも気がひける。 ので、買い物ついでにお昼を食べてくることにした。
 外食というと決まってラーメンか蕎麦なのだけれど、この日、いつもなら絶対に入らないような店に入ることになった。 駅前のショッピング・センターの中にある、カフェである。以前からあるのは知っているけれど、一度も利用したことはない。たまたま亭主が風邪気味で、ちょっと座って休みたいな、思っていた時に通りかかったので入ることにした。
 メニューはとぼしい。スパゲティ数種類とカレー、出来合いのサンドウィッチくらいしかない。
 そして、高い。場所が場所だから仕方がないけれど、ミートソースとナポリタン、アイス・コーヒー2つ頼んだら、軽く2000円突破した。お昼にしてはちょっと贅沢だ。
 料金は先払い。おつりをもらっていると、もう一人の店員がカチカチに凍ったスパゲティを2つ、まさしく電子レンジにかけようとしていた。けっこうな値段をとっているわりには冷凍物かいな。
  待つこと数分、まずは亭主のミートソースが出来あがる。ソースの色がやたら薄い。なんだか、ソフトめんみたいな色だね。そう言うと、一口食べた亭主が答えた。
「かなりソフトめんに近いぞ!」
 そうと聞いて、一口もらう。なるほど。これはなんともノスタルジックな味。給食メニューの一番人気。懐かしのソフトめんの味によく似ている。
「ある意味、当たりかもね、この店」
 などと言っている間に私のナポリタンが出来あがった。これがケチャップべっとりでかなり品のないお味。でも、この『品のなさ』がナポリタンの醍醐味だと私は思っている。こじゃれたパスタより、私はこの下品なナポリタンが大好きなのだ。
 そして、まずいけれどうまい食べ物のチャンプいえば、私にとってはやはりニューヨークのホットドッグである。パンはパサパサで味気ない。茹でただけのソーセージも粗悪なもの。バターはつかわず、ケチャップ、マスタード、ザワークラフト(きゃべつの酢漬け)、そしてグレービー・ソースを ごっちゃりとかけたそれは、洗練された味とはほど遠い。おいしいはずのないこのホットドッグがたまらなく美味に思えるのは、紛れもなくニューヨークという街の魔力のせいだ。ぴりっとした空気と騒音の中で頬張ると、いっぱしのニューヨーカーになったようで、気分がいい。立ち食いというお行儀悪さがちっとも違和感なく街並みに溶け込んでいる。そうして私もこの街の景色のひとつになる。
 たとえば中学生の頃、こっそり入った喫茶店で食べた真っ赤なナポリタン。やましい気持ちがあるが故に、この上なくおいしいものに感じた。何かに背くということは、甘美な想いと背中あわせなのだ。 誰にでもそんな経験があるだろう。 おいしさは、いつも自分の心が決める。なんちって。



 


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