奪われた安楽椅子



 一昨年のお正月旅行のプーケットから、寝椅子2つ買って帰ってきた。タイ独特の、三角形のクッションである。
 我が家はコタツ派なので、もたれ掛かれるものが必要不可欠。ちょうど座椅子が壊れてしまった後だったので、腹を決め、一番大きなタイプのものを選んだ。折り畳み方で座椅子にも寝椅子にも変形するタイプである。
 2つをまとめて包んでもらったら、かなりの大きさになった。ホテルまで汗だくになって持ち帰り、飛行機に預け入れ、なんとか成田に運び、税関をくぐる。
 黒いビニールに包まれた大きな物体を、税関員は
「あー、それは、タイのクッションですね」
 と、あっさり見破った。
 こうして、我が家にペアの三角クッションがやってきたわけである。
 見た目もよければ座り心地もよい。苦労して持ってきた甲斐があった。(もっとも『持つ』のは亭主。 私は長いこと腱鞘炎を患っているので、重い物を運ぶのは絶対的に亭主の仕事となっている。)
 そんなわけでとても気にっているのだけれど、困ったことに、猫たちもこのクッションを気に入ってしまったのだ。
 私がトイレやキッチンに立つ度に、戻るとココがその上でとぐろを巻いている。 どかしてもどかしても、ちょっとした隙を見つけると、さも当然のような顔をして寝ているのだ。
 先日、亭主の帰りが遅かったので一人でテレビを見ていると、ココが私の周りをうろつき始めた。
 ははあ、膝に乗りたいのかな、と、抱っこしてみると、すぐに逃げ出した。
 ひょっとして、と思い、亭主のクッションの方に移動すると、案の定、どっかりと私のクッションの上に腰をおろしたわけである。
 なんてことない、この三角クッションに座りたかっただけなのだ。 こうして私の安楽椅子は、奪われてしまった。
 少しすると、ルーがやってきて、ココをそこから追い出す。私のクッション追われたココは、私が座る亭主の方にやってきて、もぞもぞと私の背中の方向から潜り込み、無理矢理に腰を下ろした。
 亭主の三角クッションも、徐々に侵略されつつある。
 それにしても、買ってきてからすでに1年経つというのに、猫たちがこのクッションにやたら乗り始めたのは最近のことである。 きっかけが何だったのか、見当もつかない。
 おそらくは1年かけてたっぷりと私たちの匂いを吸い込んだので、安心できるのではないかと思う。
 だったらかわいいではないか、と、安楽椅子を失ってもにんまりしてしまうのは、やっぱり親馬鹿だろうか。
 もう一度タイへ行って、新しいのを買い足そうかと、仕方なく壁に寄り掛かりながら、本気で考えている今日この頃である。



 


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