いいじゃあないの幸せならば



 同性愛者同士の事実婚は認めるけれど、婚姻は御法度。
 大統領選挙も絡んで、アメリカで何やらもめているご様子。
 私はゲイの人々に対して全く偏見はないし、本人同士が幸せならば結構なことだと思っている。 もし自分に子供がいて、同性と結婚したいと言い出したら、そりゃ驚くだろうけれど、特に反対はしない。自ら選択した人生に責任を持てるのならば、喜んで祝福してあげようと思う。カミング・アウトした人々にしたって、自分たちの運命が生半端なものでないことくらい、覚悟しているはずだ。誇りがあるから、彼らは堂々としているのだ。
 けれども、多くのアメリカ国民が同性愛者同士の婚姻には反対。これにつけこんだブッシュさん、票獲得のために『御法度案』を打ち出したわけである。ゲイの方々にとってはいい迷惑である。
「認める理由がわからない」
 と反対派の人々は言う。 それならば、認めない理由だってわからない。ゲイのカップルが婚姻届を出したところで、どんな迷惑がふりかかるというのだろう。何か不都合でもあるのだろうか? 子供たちへの影響だろうか。世にゲイの夫婦が誕生しようがしなかろうが、恋心というのはコントロールできるものではないし、結局は縁によって人と人は結びつくのだ。
 あるいは宗教的な理由があるのかもしれないけれど、何もそんなにヒステリックに反対を唱えるこたないだろう、と思う。

 ニューヨークのディスコで、ショッキングな夜を過ごしたことがある。客のほとんどが黒人とヒスパニック系。全員、男。
 ぎらついた目で、私たちかよわい女(?)2人に視線を注ぐ。
 恐る恐るトイレに入ると、LADIESのはずなのに、床には男達がびっしりと座り込んでいる。普通なら逃げ出したくなるところだけれど、だいぶビールを飲んでいたので、背に腹は代えられず、個室に入ってしまった。
 すると、
「ヘイ、ベイビー!」
 の声。 ひっ! わ、私のこと?
 出るのも怖い。けれど、ずっとこの中にいるわけにもいかない。勇気を振り絞って戸を開くと、目の前で熱烈なキス・シーンが展開されていた。もちろん、男同士である。
 少しして偶然店にやってきたNY在住の日本人の男の子が、その夜がゲイ・ナイトであることを教えてくれた(彼自身はストレートだと主張していたけれど???)。
 皆が皆、私たちを見ていたのは、なんで女がここにいるのよっ! という疑惑の眼差しだったのだ。
 こうして未知の世界の洗礼を受け、一度ぶったまげてしまえば、あとはどうってことない。男同士でチークを踊ろうが、ねっとりとキスを交わそうが、見慣れてしまえば、微笑ましくさえ思えてくるものだ。かえって、こういった特殊な場所でしか堂々と抱き合うことの出来ない彼らを、気の毒にすら思った。
 けれど、彼らは皆、心からその夜を楽しんでいる様子だった。それは、彼らにとっては、ごく自然の振る舞いであり、あるべく世界の形なのだ。
 それは確かに衝撃的な光景ではあったけれど、私は今も懐かしく、切なく思い出すことができる。
 だからあなたの身内や友人が、異性を好きになろうが、同性を愛そうが、そっとしておいてあげましょ。
 いいじゃあないの、幸せならば。



 


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