お返しヴァリエーション



 ヴァレンタインから早一ヶ月。
 今年は近所の輸入食品店で、値段のわりには見栄えのよいチョコレートを見つけ、社内あちこちに配った。
 毎年、毎年、ほぼ同じ人々プラス新たな業務でお世話になった数人にも。
 そして迎えたホワイト・デーの季節。たいてい、お返しはハンカチ・セットだったり、焼き菓子だったりするわけだけれど、今年はちょいとばかし、事情が違っていた。
 数日前、チョコをあげた一人、Uさんからメールが入った。社内ではかなりご高齢の方で、若い女性社員からはとっては優しいおじいちゃんとして慕われている。
 ビルの1Fフロアまで下りてきてくれとのこと。そこで渡された袋はずっしりと重い。なんだろ。楽しみ。ふふふ。 と、デスクに戻って開けてみると・・・・・・。
 ん? なぜ?????
 タクアン? 
 そう、タクアンが丸々一本とオレンジが2つ。ホワイト・デーのお返しにタクアンとは珍しい。 けれど辛党の私には、お菓子よりもうれしい贈り物。私が飲兵衛であることを知っているUさん、わざわざ故郷の鹿児島から取り寄せてくれたのだそうだ。その夜、さっそく梅酢漬けのタクアンを切り、ビールと共においしくいただいた。感謝!!
 それに続き、大阪事業所のN氏から社内便。この厚み。きっと、お返しに違いない。 わくわくしながら封を開けると・・・・・・。
  ん? これは、何?
 肘や膝のかさかさを防ぐ、『潤いシート』のセットである。しかも、薬屋さんの袋に無造作に入っている。確かに実用的ではあるけれど、意表をつかれた。 大阪事業所の女の子に聞いてみると、やはり同じものを貰ったという。彼女はよく半そでのニットを着ているので、もしかしたら日々観察されているのではないか。自分の肌はそんなにかさついているのだろうかと、しばらく考え込んだそうだ。
 そして、他の方々からも続々とお返しを頂き、私のデスクは、今、お菓子がいっぱい。
 ん? 一人だけ、返ってきていないぞ。
 女子社員のいじくられキャラ、T氏である。こういったイベント事にはとんと無関心、無縁の彼。他の方にいただいたばかりのマカロンの箱を手に私は彼のデスクの背後に回った。
「あー、おいしいな〜。マカロン。こんな素敵なお返しをくれるなんて、男っぷりも上がるってなもんだよねー」
 実は、私は彼のチョコレートだけには細工を施しておいた。PCで『\5,000』の値札を作り、さもはがし忘れたかのうように、300円もしないチョコレートの箱に、貼っておいたのだ! こりゃお返しも楽しみってなもんである。私に限らず、管理職で独身の彼にたかる女性は後を絶たない。
 彼は本当に忘れていたようで、しつこくホワイト・デーを強調する私を、
「ああーーー、もうっ、うるさいな! まだ12日じゃないかあ!」
 とわめいて追い払った。週明けがとっても楽しみだ。
 
 最後にもうひとつ。
 つきあいは長いけれど、最近、業務関連でよくお話する機会の多い、大阪のKさんに初めてチョコを贈った。彼からはすぐに丁寧なお礼のメールが届いた。

『お気遣い、ありがとうございます』

 に続いて、ドキっとするような言葉。

『What do you expect me?』
 
 んんーー、意味深。でもお互い家庭のある身。トラブルは避けたいものですよね。
 というわけで、K氏からはかわいらしいタオル・ハンカチとドライ・フラワーの詰め合わせをいただいた。

 さあ、トリを飾るT氏からのお返しは何だろう。もちろん、倍返しよね?



 


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