機械音痴はほどほどに



「NENEさんて、理数系ですか?」
 たまにexcel関数なんぞを作ってあげると、会社の子たちからよく聞かれる。
 とんでもない。私は生粋の文系人間で、数学なんて言葉を聞いただけでも、学生時代の忌まわしい記憶が甦り、今でもぞっとする。
 しかも、CDではなくレコード、MDではなくウォークマンの世代だ。昨今の最新機器を前にすると、途方にくれてしまう。
  まず、現代社会では必需品となった携帯電話。私には「かける」と「とる」しか出来ない。なにせ、メモリー登録すら出来ないのだ。
  もちろんビデオの録画予約もだめ。CDプレイヤーの使い方もさっぱりわからない。実はFTPの設定もようわからんので、亭主にお願いしているありさま。
  そう、私は典型的な「機械音痴」なのである。
  先日、成田空港に着いたところで時計を忘れてきたのに気づいた。携帯で時間がわかるので、普段からつけていない。けれど海へ行ったりするのに、日本でしか使えない携帯を持ち歩くのも馬鹿らしい。というわけで、出発ロビーのお店で安い腕時計を買うことにした。
 ウォータープルーフで\1,980。何もかもが割高な空港内にしてはまずまずの買物だろう。
 問題は、その時計が現在刻んでいる時間が日本時間であるということ。
「時間をあわせていただけますか?」
 レジのお兄さんは快く、
「いいですよ」
「あの、ハワイの時間に……」
「えっ?!」
  お兄さんは絶句する。
「えーと、ハワイは今、何時ですか?」
 えー、19時間の時差だから、5時間足して1日戻して、と、葛藤の末、なんとかハワイの現地時間に合わされた。
 ところが、飛行機の中ではエンジンその他もろもろの音で気づかなかったのだけれど、この時計、1時間毎にアラームが鳴るように設定されていた。
 説明書を読んでみても、どうすればよいのか、さっぱりわからない。
 私にとって精密機器の説明書なんて、アラビア語の小説にも等しいものなのだ。
  結局、日本に帰った今でも、この時計はハワイの時間を刻み続け、1時間毎に電子音を鳴らしては猫をびっくりさせている。
 それにしてもあれだけ苦手な数学だけれど、私は、計算だけは速い。そろばんをやっていなかったら、中学すら卒業できなかっただろうな、と今でも思う。

 
 

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