轢かれたカエル
「この子は、嫁に行けない・・・・」
子供の頃、母はよくそう言って嘆いたものだった。そう、私は寝起きも悪いけれど、寝相も至極、悪い。
初めて自分の部屋というものを与えられることになった時、洋室だったので、ベッドを購入することになった。
「シングルじゃ危ない」
との両親の一致した意見で、セミダブルのベッドが私に買い与えられた。
初めてのベッドに浮かれた、初めての夜、早速、転がり落ちた。それを聞いて、
「やっぱり、嫁には行けまい」
と、母の嘆きは、一層深くなった。
無意識の中でも、身体というのは学習するのか、2日目からは無事にベッドの範囲で眠れるようになり、無事に嫁にも行けたけれど、今でも寝相の悪さは治らない。
亭主と初めて海外のホテルに泊まった最初の朝、私のベッドには、見事な『毛布団子』が出来上がっていた。
シーツがベッドマットにくるまっているのがどうしても許せなくて、私はいつも、全てええーいっ、と剥ぎ取り、普通の布団感覚で寝る。
一晩、私の身体を纏ったシーツとブランケットは、見事なまでにこねくりまわされ、大きな団子となって、ベッドの上に君臨するのだ。
一方、すこぶる寝相の良い亭主のベッドは、ほとんどハウスキーピングの手入れも必要のないような状態である。
「なんか、これってばさ、こっち(団子ベッド)が男で、こっち(亭主のきれいなベッド)が女って、思うよねー、ハウスキーピングの人」
と笑ったら、
「そういう問題じゃないだろ!」
と、亭主に怒られた。
蒸し暑い熱帯夜となると、さらに凄い。 亭主曰く、私の寝ている姿は、『轢かれたカエル』そのものなんだそうだ。
真冬でも布団を蹴り飛ばして寝ていることが多いので、目が覚めるたびに、私に布団を掛けているという。風邪をひくから、もっと気をつけろ、と言われるけれど、眠っている時のこと。今、自分がどんな姿形で寝ているかなんて、考えられるはずもないのだ。
今でも、リゾートホテルにチェックインして部屋に入った瞬間、それがダブルベッドだとわかるやいなや、亭主はがっくりと肩を落とす。私は全然かまわないのだけれど、亭主にとってみれば、安らかな睡眠を妨げる、私の寝相の悪さを思い、憂鬱になるのだという。
ダブルベッドともなれば、さすがに『ひっぺがし』はしないけれど、寝袋に入ったような不快感から、私の四肢は自由を求めて四方八方動き回る。
どうすれば寝相が良くなるのか、そんなことは昔から考えてはいるけれど、未だ答えが見出せない。
まあ、亭主には、その答えが出るまでは我慢してもらうとして、とりあえずは、娘が嫁に行けないのではと嘆いていた母の悩みだけは解決できたのだから、よしとしよう、うん。
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