しみじみ、秋色



 秋、というよりもはや冬の気配が濃い今日この頃。
 しつこいようだけれど、夏大好き人間の私は、次第に空気が乾燥し、肌にひんやりとした風の感触を感じるようになると、 気持ちすら冷え冷えととしてくる。
「やっと涼しくなりましたね」
「これくらいの気候がちょうどいいですね」
 秋に対する誉め言葉は多々聞くけれど、夏、それも今年のような猛暑ともなると、皆一様に不平ばかりを口にするのはなぜなんだろう。暑いって素敵じゃないか。私にとっては秋なんて、ただただ物悲しい日々でしかない。
 そんな季節でも、子供の頃は唯一、うきうきと心弾ませる出来事があった。
 故郷の秋祭り。 毎年10月の半ば2日間にわたって行われる伝統的なお祭りだ。
 9月に入ると、街中、どこにいても、太鼓の音が聞えてくる。各町の山車に乗り込み、太鼓を叩くのは、小学校高学年から中学生の男子のみに与えられた特権であり、選ばれた者は、ちょっとした英雄だった。だから応募者も多く、早くから試験を兼ねた練習を始め、1週間ほどして、合格者が決まる。
 選ばれた男の子たちにとっては、本番までは太鼓の練習が最優先。部活動も塾もほったらかして、夜遅くまで特訓に明け暮れる。
 祭りの2日間だけは、午前中で授業が終わる。太鼓を叩く男の子たちは、さらに早く学校を後にする。 勉強よりお祭りが優先されるなんて、珍しいことかもしれない。けれど許されるのは、この町の祭りは人々の「遊び」ではなく、神様のためにあるものだからだ。
 学校から家に戻ると、台所からお酢の匂いが漂ってくる。これも我が家の伝統行事。母がこの秋祭りの時にだけ作る、箱寿司の用意をしているのだ。 家紋の入った木箱に酢飯を詰め、その上に魚のそぼろ、卵焼き、しいたけ、かんぴょう、その他諸々の具材を並べる。目にも鮮やかなお寿司。 我が家ではこれを何十個も作り、親戚やご近所に配るのが常だった。
 露店は昼間から開いているので、すぐに外へ飛び出し、一度帰宅、夕飯にお寿司を食べてまた外へ。子供の頃から出不精な私が外で遊んだ記憶なんて、他に思い出せない。
 太鼓は男の子にまかせて、山車を引っ張るのは男女関係なく小学生までの子供たち。 もちろん、私も毎年参加していた。山車同士がすれ違う時は、太鼓の音が競うように早くなるのを、いつも興奮しながら聞いていたものだ。
 終わると、ご褒美のお菓子が配られる。これももちろん町によって様々なのだけど、私の町のご褒美は、他の町よりも豪勢だったように思う。別の町の子がヤクルトと駄菓子の袋をもらっているのに対し、こちらは高級そうな箱に入ったクッキーの詰め合わせだったり。 でも、子供からすれば、ゴーヂャスななクッキーよりも、チョコやら飴やらがごちゃごちゃ詰まった、駄菓子の袋の方が、魅力あるものに感じるものだ。我が町は商業地区だったから、やっぱり金があったんだろうなあ。山車もかなり立派だったし。
 この祭りの思い出は限りなくあるけれど、一番鮮烈に覚えているのは、UFOを目撃したこと。山車を引っ張っている最中の出来事で、かなりの人数が目撃したのではないか。全然祭りに関係ないけど・・・・・・。
 まあ、要するに何が言いたかったかというと、故郷を離れ、祭りも関係なくなった今、秋なんて全く魅力のない季節だということだ。数年前の忘年会であたってからは、生牡蠣も食べれなくなったし。本当に、夏が終わるとロクなことはない。


 


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