満員電車でGO!



 好む・好まざるにかかわらず、都会でサラリーマン生活をしている者にとって、満員電車とは切っても切れない縁で結ばれている。
 私の会社はフレックスなので、避けようと思えばラッシュ・アワーは避けられるけれど、なるべくなら早く行って、早く帰り、余裕をもって夕食の準備をしたいので、日々、満員電車に揉まれている。
 押して押されて、足を踏んだり踏まれたり。こんなことは当たり前のことなので、通勤時間帯のたいていの乗客は『お互い様』と暗黙の了解のもと、多少のことには口を噤んでいる。
 困るのは、満員電車に乗りなれていない人々である。 もちろん乗るなとは言えない。けれど、せめてある程度の覚悟をもって乗ってくれないだろうか。
 先日、スポーツクラブでも行くのか、上下スウェットのおばちゃん5人組がぞろぞろと乗り込んできた。普通に喋っていればいいものを、ずっとずっと文句を言い続ける。
「んまあっ、なんでこんなに混んでるの?」「いやだっ、ちょっと、すごい人!」「あいたたたたたたっ! 痛いじゃないっ!」
 こちらとて、好き好んで満員電車に乗っているわけではない。なぜと言われても、会社なり学校へ行くために乗っているだけなのだから、どうしようもないではないか。こういう人々と乗り合わせると、朝からほとほと疲れるし、ストレスも倍増するてなもんである。
 長年、通勤していれば、むかついた出来事なんて数え切れないけれど、たまには、感心することもある。
 ほんの数日前の帰路、始発駅から急行に乗り込むと、中学生くらいの男の子3人がドアによりかかって話していた。次の駅でそちら側のドアが開き、地下鉄から乗り換えてくる人間がどどーーっと流れ込んでくるとも知らず。ところが、いざ次の駅に着いてみると、意外や意外、彼らはすぐにドア口を離れ、奥に引っ込んだ。一人が
「かばん、前に抱えた方がいいよ」
 と言うと、もう一人が
「メールは後にしよう」
 彼らは携帯をバッグにしまい、大きな荷物は身体の前で抱きかかえ、迷惑にならないよう、おしゃべりも止めた。前出のババ共とは比べものにならないほど、行儀が良い。若いのに、実にしっかりしている。きっと親の躾が良いのだろう。こういう場面に出くわすと、世の中まだまだ捨てたもんじゃないと思う。
 最近、よく駅で『オフ・ピーク通勤にご協力を』というポスターを見かけるけれど、実際に通勤している人々にこのような呼びかけをして、果たして効果があるのだろうか。誰だってすいている時間帯で通勤したいのは山々なのに。会社が9時に来い、と言えば9時に行かなければならないのだ。通勤時間帯を決めているのは、個人ではなく、企業側なのだ。そんなにオフ・ピーク通勤をして欲しけりゃ、ひとつひとつの会社を回って、頭を下げればいいじゃないか。そんなわけで、このポスターを見るたびに、釈然としない思いがこみ上げてくる。
 満員電車といえば、痴漢の話しも外せない。井の頭線で通勤していた時は、ほぼ毎日のように痴漢にあった。揺れた拍子に手が触れただけでないの? と言われたこともあるけれど、痴漢の手の動きというのは明確にわかるものだ。一般的に痴漢は、背が低く、髪の長い若い女性を狙う確立が高いと聞いたのもこの頃のこと。当時は髪を伸ばしていたので、私なんぞは格好の獲物だったに違いない。
 最近は痴漢に遭うこともぱったりとなくなったので、せいせいする。と同時に、ちょっと淋しい。いや、触られたいわけではなく、痴漢が狙うような若い娘時代は本当に過ぎ去ってしまったんだなあ、と切なく感じてしまうのである。こんなことを思うのは、秋が深まり、ちょっとばかしおセンチになっているせいなのかなあ。痴漢に遭わなくとも、私の満員電車人生は、まだまだ、続く。


 


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