Honesty is the Best Policy!



 自慢だった長い髪をばっさりと切り捨てたのは十年も前のこと。伸ばしている間は1cmでも切るのをためらったのに、いざショートにしてしまうと何てことない。女性は絶対ショートカット派! の亭主と巡り合い、結婚にまで至ったのも、あの決心が少なからず功を奏しているに違いない。
 失恋したわけでもなんでもない。ある夏の夜、いつものごとく酔っ払っていた時に、突然、
「うおおーー! 暑い! 髪を切るぞおおお!」
 と思いたち、一緒にいた友人(当然酔っ払い)にちょっと切ってもらったのである。素人がやったことなので、翌朝、ザンバラ頭に絶句して、アパートから一番近い美容院に駆け込んだ次第である。
 以来、ずっと肩にかからない程度のショートカット頭を維持している。

 さて、最後に美容院へ行ったのは7月だったから、かれこれ半年近く経ってしまった。収拾がつかなくなってきたので、今は後ろは束ね、前髪は亭主に切ってもらっている。
 とっとと美容院へ行けばよいではないかと思われるだろうけれど、私は、再び美容院迷子となってしまっている(『ささやかな贅沢をもう一度』参照)。
 とある美容院の割引券セットを使いきり、さて次はどうしようかと思っていた時に、半額キャンペーンのお知らせメールが来たので、同じとこへ行ったのだけれど、その後、行くべく美容院を選ぶことができず、今に至ってしまった。
 なぜって、何度も言うけれど、女性週刊誌を置いていない美容院なんて、けしからんと思うからである。そちらが店のポリシーとして置かない、というのであれば、こっちだって意地がある。
「特別な割引でもない限り、女性週刊誌のない美容院なんぞに行くものか!」
 というポリシーを貫き通す決意をした。
 ごく近所にも美容院があり、大きな窓越しに通りから中が覗ける。雑誌は充実しているようなので、ここにしよっかな、と一瞬思ったのだけれど、よくよく見てみると、種類は豊富でも女性週刊誌独特の、けばけばしい色彩のものはないようだ。
 あー、どうすればよいのだろう。 念の為ネットで検索してみても、さすがに置いてある雑誌の種類まで詳しく説明してある美容院のHPなんぞあるはずもない。 探すのも面倒なので、もう一度伸ばしてみようかな、と思う今日この頃。
 そんな時、例の美容院から葉書が届いた。50%OFFの文字が踊っている。 おお、また半額キャンペーンか! と思いきや、
『○○(担当者)とジャンケンをして勝ったら50%OFFになります』
 だと……。
 なんてせこい手を使うんだろう。私は元々クジ運が悪いし、ジャンケンに至っては、ここぞという時には必ず負ける運命にある。こんなお知らせをもらっても、嬉しくもなんともない。いさぎよく、全ての客を半額サービスにすればよいことではないか。たった数冊の女性週刊誌を置かないがために、重要な顧客を一人失う危機なのだから。
 いよいよ冬に突入して、週末、外に出かけるのも億劫になってきたし、おいしい話でもなければ、このまま伸ばし続けることになりそうだ。
 ショートにしたあの十年前の冬。久しぶりに冬の大気にさらされた襟足の寒さといったらなかったので、春になるまで、美容院探しは中断することにしよう。


 


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