今回は何としてもノース・ショアへ行こうと決めていた。ハナウマ・ベイ、ダイアモンド・ヘッド、アロハ・タワーはもちろん、 潜水艦ツアー、カイルア・ビーチからポリネシア文化センターまで、一通りのオアフの『見所』を制覇した父が、生前、行きたがっていた場所である。
　ひょっとしたら『最後の楽しみ』にとっておいたのかもしれない。けれども、ついにその夢を果たすことなく逝ってしまった。だから、遺骨になってはしまったけれど、どうしても父を連れて行きたかったのだ。
　遺骨を海に還す前となると到着日しかない。リピーターであれば、レンタカーでドライブ、という手もあるが、私はここ5年間ほど全く運転をしていないペーパー・ドライバーな上、致命的な方向音痴である。ツアーに参加するにも、一人だとなんとも居心地が悪そうだ。
　となると、車をチャーターするしかない。そこでお願いしたのが『着いたよツアー』である。これは前回ハワイ島日帰りツアーをお願いしたエージェントが催行しているもので、空港到着からホテルのチェックインまでの時間を使って、好きな所へ連れてちゃうよ、というツアーである。ご存知の通り、日本からホノルルへ着く便は早朝が殆ど。パッケージ・ツアーだとDFSやらカメハメハ大王やら、お決まりコースを引きずりまわされ、最後にはお土産とオプショナル・ツアーを申し込ませる大説明会と相場が決まっている。個人旅行で、アーリー・チェックインを頼まず、かつ車の免許を持っていない人には最適のツアーである。
　というわけで、このツアーをお願いして空き時間を活用することにした。そして約束の9:00ぴったりに、リクエスト通り、女性ドライバーが私を迎えに来てくれた。
　天気は上々。絶好のビーチ見物日和である。世間話をしながらノース・ショアまで、快適なドライブが続く。
　ハレイワの街で一旦下りるも、朝早いせいか、まだ人通りもまばらで、オープンしているお店も少ない。数枚、写真撮影をした後、再び車に乗りこんで、ワイメア・ビーチ・パーク、パイプラインそしてサンセット・ビーチと、ノース・ショアの代表的なビーチに寄ってもらった。
　父が夢見ていた場所。ポリネシアの文化と古き良き時代のアメリカが融合した街のビーチ。これこそが本当のハワイの波。ワイキキが観光客の為に作られた街ならば、ここはサーフィンを、そして海を心から愛する者たちだけが立ち寄るべき聖地なのだろう。夏場にはシュノーケリングを楽しめる岩場もあるそうなので、1泊くらい、ワイキキを離れてこの辺りのB&Bなんぞに泊まるのもいいかもしれない。

　さて、目的の場所を見てしまうと他にこれといって予定はない。それでもまだ11:00である。これでは昼前にワイキキに着いてしまう。ふと思いついて、尋ねてみた。
「どこかで安い水着を買いたいんだけれど」
「だったらいい所がありますよ！」
　ドライバーのミカさんが連れて行ってくれたのはパール・シティにあるアウトレット。安いことは安いけれど、サイズもデザインもかなりちぐはぐで、なかなかビンゴなものがない。やっぱり専門店で買おうかな、と思っていたら、大きなプルメリアが描かれたセパレーツを見つけた。別のメーカーのスカート(?)ともちょうど合う。これで$21はやっぱり安い。 ロコの人たちは、まずこのお店に着て服やら食器やら、日用品を揃えるのだそうだ。
　その後、ワイキキへ向かいながらミカさんも大好きだと言うバリ島の話で盛り上がる。私がジャワ更紗（バティック）に目がないことを告げると、今度は
「じゃあ、ファブリック・マートへ寄ってみます？」
　水着は買う予定だったけれど、これは予算外。けれど色とりどりの布を目の前にして、黙って立ち去れるほど私は大人ではない。
　結局、迷いに迷って5パターン程買ってしまった。

　ホテル前に着いたのは午後1時。もう掃除も済んでいる頃なので、チェックインできるだろう。料金は目的地、人数にかかわらず$70＋チップである。 私はたまたま一人だったけれど、何人かで申し込めば、とってもお得なツアーなので、これはお勧め！

　案内された部屋の窓を開け放つと、ハワイ特有の乾いた南風が吹き込んでくる。続いて サン・オイルとココナッツと花の香り。ラナイに出ると、元気いっぱいの太陽が光のプールを作っている。
　病身ゆえ、海に入ることもかなわず、精力的に街を歩き回ることも出来なかった父だけれど、こんな風にラナイで風に当たっているだけで、満足だったのだろう。 何もしなくとも、父は幸福だったのに違いない。この、ハワイの空気に包まれてさえいれば。

　さてさて、お腹もすいた。一息ついたら、デュークス行って、フレンチ・フライを食べよう。 もちろん、コロナ・ビールも！ が、そんな私のささやかな希望は、この後、儚くも散ってしまうのです。

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