いとしのデュークス



 浮かれ気分の旅ではないけれど、やはり少しばかりの楽しみがなければやってられない。
 ハワイと言えば、アウトリガー・ホテルのレストラン・バー『デュークス』である。ここでコロナ・ビールを飲み、絶品のフレンチ・フライを食べることだけが、今回唯一の 楽しみだった。ワイキキのど真ん中にありながら、殆ど日本人の姿を見かけない、希少な店である。
 チェックインの後、早速服を着替えてデュークスへ向かう。飛行機の中で朝食を食べ損ねたので、とてもお腹がすいていたのだ。
 がっ。すでに2時近いというのに、店内は欧米人の客でぎっしりと埋め尽くされ、ものすごい賑わいを見せている。日本人なんぞ一人たりとも入れるものかといわんばかりに。あきらめきれず店内をうろうろするも、皆、どーんと腰を落ち着かせて真昼間からビールを飲んでいる。もちろんこちらも飲むつもりだったので人のことは言えないけれど、少し待ったところで席は空きそうにない。しかたなく周辺を散歩し、土産屋をひやかし、頃合いを見計らってもう一度覗く。
 しぶとく居座る欧米人。 ふたたび、散歩。
 そして・・・まだいる! 時刻はすでに3時をまわり、いいかげん、足も疲れてきた。そんなわけで、この日は退散。ブレーカーズへ戻って、プールサイドで遅い遅いランチを食べた。
 翌日、散骨を終えてホテルへ戻ったのが午後1時。思いっきりランチタイムだろうけれど、とりあえず行ってみる。
 あああ、やっぱり・・・・・・。
 しかし、この店、こんなに混んでいたっけ? 以前はビーチで泳いで、喉が乾いたら気軽に入ってビールを飲めたはず。テーブルがひとつもあいていない、などということは一度もなかったのに。我が物顔でビールを流し込むゲストたちを見ているうちに、空腹も手伝って腹がたってきた。
 君たちより、私の方がずっと前からこの店の愛好者なんだぞ!!
 などと心の中で叫んでも何にもならない。早いもの勝ちなのだから。
 その夜、私は計画を立てた。デュークスの朝食は10:30まで。その後ランチタイムは11:00に始まる。さすがに朝飯の後、そのまま居座って酒を飲み始める奴はいないだろう。明日、11:00直前を狙って行ってみるしかない! ハワイで過ごす最後の1日。この日を逃すわけにはいかないのである。
 
 そして決行の朝。
 予定通り10:40をまわったところでホテルを出、ゆっくりとデュークスへ向かって歩き出す。普通に歩けば10分くらいのものだけれど、念には念を入れ、早目に出た。アウトリガー・ホテルのエントランスで 時間調整し、11:00、まさに1分前! 私はデュークスに足を踏み入れた。そして、ちょうどゲストが帰ったばかりのテーブルを 片付けているウェイトレスさんの元に駆け寄る。
「ランチタイム、ですよね?」
 彼女は腕時計を見やり、
「ちょうど今からよ!」
 そう言って海に面した特等席の椅子をひいてくれた。 ああ、3日かけてようやくこのテーブルに座ることができた。ウェイトレスが持って来てくれたメニューを開き、まずはコロナ・ビールを。多いとは思ったけれどフレンチ・フライのうえ、タコスまで頼んでしまった。 夢にまで見た揚げたてのフレンチ・フライ。表面はさっくり、中はふんわりとしたじゃがいも。スパイスを効かせてこんがりと焼いた白身魚のタコスにはクリームチーズと野菜を思いきり挟んで食べる。 2本のコロナを空けたところで、今度はきりっと冷えたピナ・コラーダ。
 あー、し・あ・わ・せ。
 前の年の7月、オアフ島では、公共の場所での喫煙が禁じられてしまった。それにあわせてこの店のテーブル席もやっぱり禁煙。 しかれども、たばこが吸えないくらいなんのその。すぐ目の前に広がるビーチを眺め、潮風にあたりながら食事が出来るなんて、これ以上の幸福はない。
 結局1時間かけてたっぷりと味わい、残ったフレンチ・フライを包んでもらい、ほろ酔い気分になったところで腰を上げた。すると、すぐさま一人のおじさんが近づいてきて、私に訊ねる。
「ここ、いいですか?」
「どうぞ」
 おじさんは満面の笑みを浮かべて席についた。粘り強く待っていた様子。本当に人気店になっちゃったんだなあと 複雑な思いを抱えて、それでも満足してホテルへ戻る。途中、手に入れた無料のガイドブックの英語版を見ていると、日本語版には載っていないはずの『DUKE'S』の文字。そんなに日本人て迷惑なのかなあ。
 けれど決して日本語のメニューを出さないプライドがこの店の魅力でもある。なんたって、 ここはアメリカだもんね。




やっと座れたデュークス・・・(ノ_・、)
コロナ・ビールで至福のランチ。


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