ごはん難民
初めてのひとり旅とはいえ、そこは勝手知ったるハワイ。特に困ったことはなかったけれど、唯一頭を悩ませたのが夕食である。
私は一人でもふらっとお店に入って食事するのは平気な方なので、朝食とランチは気軽に目に付いたお店で済ますことができた。けれど、夕食となるとやはりそうはいかない。グループやファミリー、そしてカップルが店内を蹂躙している上に、お酒も入っているので、どこのテーブルも賑やかなことこの上ない。そんな人々に囲まれて一人でポツリ食事をするのはなんとも味気ないし、さすがに淋しい。
だったらどこで何を食べようかと、考えるのも面倒なので初日はABCストアでそうめんのパックとスパむすびを買い、ホテルのテラスで
食べた。渡ハ5度目にして初のスパむすびはなかなか美味。そうめんも少しのび気味ではあったけれど無難な味。わさびの代わりに紅しょうがで
食べるというのも新発見。
けれども、海外へ来てまで一人でもそもそとそんな物を食べるのは、やはり侘しいもの。せっかくキッチンが付いているのだから、一度くらいは何か作らなければもったいない。
というわけで翌日の夕刻、私はフード・パントリーへと足を運んだ。食品からお弁当から雑誌、化粧品、お土産に至るまで豊富な品揃えのこのスーパーは、見ているだけで楽しいので、毎回立ち寄る場所である。
さて、長期の滞在ならばあれこれと揃えたいところだけれど、明後日には帰国である。となると、限られた物しか買うことはできない。
ブレーカーズのキッチンには、一通りの調理器具と食器は揃っていたけれど、いかんせん、レンジがないのは致命的。調味料は塩と胡椒のみしか用意されていない。肉が安いのでステーキでも、とせっかく思いついてもオイルがない。だったら簡単に冷凍のディナー・プレートを・・・・・・。あ、そうか、レンジがないんだ。
つまりは、料理と言っても『切る』か『煮る』くらいしか出来ないという結論に、ここまできてようやく至ったのである。
せいぜいパスタを茹で、缶詰のソースを温める程度の料理しかできないのだ。あるいは、バターもマスタードもマヨネーズも抜きのサンドウィッチか。
アホらしい。だったら買った方が早いし、ずっとおいしいに違いない。だいいち、残った材料はどうなる。肉も野菜もハムもアメリカン・サイズで、一人で食べるならゆうに1週間はもちそうだ。
店内をうろつきまわること30分。いいかげんあきらめようと思っていた時、魚コーナーでまぐろのお刺身パックを見つけた。お醤油とわさびもついている。
突然、私はひらめいた。
ご飯とすしのこを買って、握り寿司を作ろう!
だってハワイのまぐろはとにかくおいしいのだ!
レジにはロコのお兄ちゃん。予想通り、ほかほかのご飯とまぐろを同じ袋に詰めようとする。このあたりは日本人には考えられない感覚だ。別々の袋に入れてくれるように頼み、ようやくフード・パントリーを後にする。
ホテルに戻って、早速、料理開始!
団子のように固まったご飯を温かいうちにスプーンでほぐし、すしのこをふりかけてまぜまぜする。手のひらを水で湿らせて、小さな俵型のおむすびを作り、わさびを塗ってまぐろをのせる。
そうして出来上がった初めての握り寿司、なかなか様になっているではないか! 最後にテラスから手を伸ばして花をもぎとって、お皿に添えればとってもハワイアンなプレートに仕上がった。
どーだ! 包丁も火も使わずに食事を作ったぞ!
テラスへ運び、ビールと共に生温かな風の中で食す。お箸がないので手で食べる。しゃりが所々"だま”になってはいるけれど、立派なまぐろの握りである。
ちなみにまぐろは12切れほど入って$7。決して安くはない。でもハワイのまぐろは本当においしいので、訪れる機会があったらぜひぜひ試して欲しい。
そして迎えた最後の夜。『自炊』には満足したので、近くのプレート・ランチのお店でテイクアウトすることにした。街中で配布している無料のタウン誌のエッセイに、プレート・ランチのことが書いてあったという単純な理由からである。どんなものかというと、これは日本でいう『ほかほか弁当』をご想像いただければよろしいかと思う。せっかくだから地元の食べ物を、と思いカルア・ピッグを注文するも、売り切れ御免。第二候補のロコモコにする。
白飯にハンバーグ、デミグラス・ソース、目玉焼きを乗せた、見るからに高カロリーなプレートである。しかも量が半端ではない。
こってり系なので、途中で口直しが欲しくなる。できれば福神漬けとか紅しょうがとか・・・・・・。
などとぼやいたところで盆に乗って出てくるわけではないので、もくもくとプラスチックのスプーンを口に運ぶ。2/3まで食べてギブアップした。実は前日のまぐろの残りを『づけ』にしておいたのだけれど、あまりにもちぐはぐな組み合わせなので、ほとんど食べずに終わってしまった。
こうして今回のハワイ旅行、全ての食事は終了したのである。旅先で、食事が占める幸福の割合は大きい。だから予算なんぞ気にせずに、食べたいものを思いきり食べよう。
もっとも私の場合は食べ物よりも、お酒のもたらす幸福度の方が、ずっと大きいのだけれど・・・・・・。
次の旅では、どんな風の中で、どんな味のビールが飲めるのか、私はいつも楽しみに待っているのである。
おっと、帰りの機内食がまだ残っていたな♪
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