カード・ゲームのルールを知らない私は友人たちと別れて、一人、スロット・マシンの前に座る。
コインを入れ、レバーを引いた。
卒業旅行でやってきた賭博の街。いきなりのビギナーズ・ラック。増えたコインを換金して戻ろうとすると、既に場所がわからなくなっ
ていた。
世界一の客室数を誇る巨大ホテル。砂漠のように広い賭博場。
諦めて、カード台にいるはずの友人たちを探しているうちに真夜
中になった。先に部屋へ戻ろうにも、どのエレベータに載ればいい
のかわからない。この本館のエレベーターだけで80基もあるのだ。
フロントで尋ねようか。でも、どうやって行けばいいの?
眠いし、お腹もすいた。
「よかったら僕の部屋へおいでよ」
声をかけてきた若者の親切に甘 えることにした。彼はシングル・ベッドの上で冷めたハンバーガーをくれた。
次の夜、まだ部屋へ戻れずにいる私にチキンを奢ってくれたビジネスマンが、ホテルのブティックで新しいドレスを買ってくれた。
三日目。今日はここを発つ日じゃなかったかしら。でも誰も私を探しにこない。部屋はどうしたかしら? もう、チェックアウトされているわね。
「独り旅ですか?」
初老の紳士が何でも好きなものを食べなさいと言うので、ステーキを食べ、ワインを飲んだ。男の部屋は最上階の
スウィートだった。ルビーのピアスを記念にくれた。
そうして幾つもの夜が過ぎ、私はカジノ・ホテルでその日暮らし
をする女として、ちょっとした有名人になったらしい。わざわざ私
を訪ねて各地から色んな男がやってきて、毎夜私を誘った。いつし
かポーカーもバカラも覚えた。
そして宝石を散りばめたような夜とシャンパンに酔いしれている
うちに、いったい何年が経ったのだろう。でも私は迷路のようなこ
のホテルから、今も抜け出せないでいる。ここは広くて、眩しくて、楽しすぎる。
でも最近、誘われることもめっきり減ってしまった。レスト・ルームのソファで眠る夜も少なくない。
なぜだろう……。
答えがわか っているから、鏡を見るのが怖い。単なる方向音痴の少女だった日は、あまりにも遠く、私から去っていってしまった。
だから今夜も僅かなチップと口紅を手に、カジノ場へ向かう。
私はこのギャンブルの街で、ぎりぎりの夜をずっと勝ち続けてき
た女なのだ。
やがてルーレットの音やディーラーたちのかけ声が私を迎える。
そこは静かに、そして確実に幕をおろし始めた、夢のステージだっ
た。
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