森に願いを

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 コルクを抜くと黄ばんだ紙に、こう書かれていた。
「三つの願いをかなえます」  
 中学生にもなってそんな御伽噺を信じたわけじゃない。
 でも僕は願ってしまった。当たるはずがないと、たかをくくって。
 けれどその夜、出張に行っていた父さんが、本当に新しいゲーム ソフトを買ってきてしまったのだ。
 これは本物かもしれない。まだ半信半疑で僕は願った。
「どうか弟をお授け下さい」  
 しばらくして母さんは物置から僕が使っていたベビーベッドを出 し、僕に言った。
「お兄ちゃんになるのよ」
 もう間違いないだろう。願い事はあとひとつ。よく考えて決めよ う。
 僕は部屋一杯に幼い頃遊んだおもちゃを並べ、端から修理し始めた。
 でもたまたまその日、母さんの機嫌が悪かったのだ。
「遊んでないで、勉強したらどうなの!」  
 ひどい。僕はまだ見ぬ弟のために……。

(母さんなんか死んじゃえ)  

気づいた時は遅かった。僕は三つ目の願いをしてしまった。

 一歩踏み出す度に、辺りは薄暗くなっていく。あんなに晴れてい たのに。
 たぶんあれが例の桜の樹。そして横には噂の洞窟。本当にあった。  
 僕は恐る恐る中を覗く。そこにはインディアンのような風貌の男が一人、目を閉じて座っていた。
「あなたが呪術師?」  
 男はそっと目を開けた。
「ねえ、呪いをかけれるなら、解くこともできるでしょ?」  
 彼は微かに頷いた。  
 僕は呪術師に告白し、彼は静かに口を開いた。
「できるよ。でもそのかわり……」
「わかってます」  
 
 僕は森を出て家へ急いだ。公道を渡ろうとした瞬間、大きなトラックが目の前に迫った。
(え、もう?)  
 呪いを解くには、かけた方の命が引き換えになるのだ。  

 目を覚ますと母さんの顔が見えた。
「あ、目を開けたわ」
「お兄ちゃんそっくりだ」  
 父さんが言う。
「本当に……」  
 母さんが涙ぐむ。
「あの子だと思って育てていこう」  
 僕は僕のベビーベッドに寝かされていた。
(なんだ、そういうことか)  
 安心して目を閉じると、あの呪術師のことも、森や小瓶のことも、 僕の記憶からそっと遠ざかっていった。


 


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