* 猫屋敷が出来上がるまで * 



 誰が言ったか知らないけれど、私の実家は、どこの国のどこの街にも必ずある「猫捨て場」と認識されてしまった。
 いつ頃からか、『ここに捨てれば、面倒見てくれる』と思う輩が、こっそりやって来ては猫を捨てていくようになった。 腹をすかせた野良猫を放っておけない猫好きの心につけこんで、わざわざ我が家の側まで猫を捨てにくる奴があとをたたなくなったのだ。
 家では旅館を営んでいたので、最初のうちは残飯を上げていたのだけれど、猫が増えるにつれ、さすがに足りなくなり、冷やご飯やおかかを用意し、わざわざ車で郊外のディスカウント・ストアまで出かけて安い缶詰を買わざるを得なくなってしまった。
 一度餌付けた猫は毎日のようにやってくる。猫同士のコミュニケーションでも話題に上ったのだろうか。食事時になると、あちこちから野良猫が集まるようになった。
 母は彼らを「裏猫」と呼んでいた。裏口で餌をやるから「裏」猫。裏猫が「家猫」に昇格したことも少なからずある。その裏口に置いてあげた箱の中で3匹の雌猫が同時期に20匹近くの仔猫を出産したこともある。
 結局、いろんな事情で家を手放すまで、彼らとの交流は続いた。住み慣れた家を出る時、母が何よりも気に病んでいたのは、他ならぬ、裏猫たちのことである。経済的には負担もあったけれど、猫の数だけ思い出があった。
「捨て場」をなくしたあの街の猫捨て人たちは、どうしているだろう。
 少しは反省して、飼えないなら去勢させるとか、何かしらの工夫をしてるだろうか。
 していないだろうな。
 かわいそうな猫たちは、どうか野良でもたくましく生きて行ってほしいものである。




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