* 毛玉物語 * 



 この世で一番かわいいものは何か。 言うまでもない、猫の赤ちゃんである。
 ペペには2人のお嫁さんを迎えたが、子宝には恵まれなかった。というのも、私のせい……なのかもしれないと、思うことがある。
 初めてのお嫁さんはアミ。白毛の美しいペルシャ猫だった。 なんにせよ、まだ子供だった私である。2人の甘い愛の交換を、「ペペがアミをいじめている!」と思いこんでしまったのだ。
 何度となくペペを叱り、アミからその身を引き離すという、とんでもないことを繰り返していたのだ。
 なかなか子供が出来ないアミに代わり、母は新しいお嫁さんを探してきた。ペペと同じブルー・ペルシャのリコである。
 必ず邪魔をする私にほとほと嫌気がさしたのか、家では落ち着いて子作りなんぞ出来ないとふんだのか、リコがさかりを迎えても、ペペはまるで相手にせず、益々夜遊びに精を出すようになってしまった。
 というわけで、とうとうペペの子供を拝む夢は叶わなかったわけである。
 ところが子宝の女神は、意外なところからやってきた。兄の友人のN氏が突然連れてきたヒマラヤンのミミである。 車で飼っていたのが家の人にばれて、保健所へ連れて行けと言われた、とさめざめと訴え、我が家に押し付けた猫だ。代わりの飼い主がいなくて困っていたわりには最終的に3万円もぶんどった。猫好きの心につけこんだ立派な詐欺師だ。
 若く健康な雌猫だったので、ものは試しと、獣医さんを介して雄のヒマラヤンのおうちへ1週間程お嫁に行った。
 そして数ヶ月後、待ち望んだ仔猫の誕生である。夢にまで見た猫の赤ちゃん。
 きゃー、6匹も! ネズミみたい! そのうち毛もふわふわと生え揃い、まるで毛玉! 小さな肉球、かわいい鳴き声、ちょろちょろとおぼつかない足取りで歩く姿。んもー、たまりません。
 ちょうど夏休みで実家に戻っていた私は、仔猫たちの一番かわいい時期を共に過ごせたのでした。
 生涯に計3回、12匹もの仔猫を産み、我が家に幸福なひとときを与えてくれたミミ。 ミミも我が家に残ったミミの子供たちも既に天国へ行ってしまったけれど、よそにもらわれていった猫たちが子孫を残し、今もどこかで元気に生きているに違いない。



もう一度、毛玉にまみれてみたいな。


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