* 猫の嫁入り −その1− * 



 ペペのお嫁さんがやってきた。
 純白のペルシャネコで、血統書を見ると、『シャンテ・コーヨー・ノア・アルテミス』というご立派な名前がつけられている(ちなみにペペの血統書名は『ジャルダン・デ・ポピイ・ジェイスンU世』。これもすごい。いまだに覚えている私もスゴイ)。
 アルテミスというのは月の女神という意味だそうで、そこから『アミ』と名付けた。ペペもなかなかお気にめしたようで、2人はめでたく夫婦として暮し始めた。近い将来、かわいい仔猫がうじゃうじゃと産まれてくるに違いない。当時小学生だった私は指折り数えてその日を待っていた。
 ところが、アミがやってきて数ヵ月した頃から、ペペがアミをいじめ始めた。ぺぺはしつこくアミを追いかけ、背中に乗り、アミの首筋に噛みついているではないか! そして、アミはかわいそうに、悲痛な叫びを上げ続ける。私は烈火のごとくペペを叱り、アミからペペを引き剥した。
 そんなことが十数回。懲りない猫だと、ペペのことを本当は意地悪な猫だったのかと思い始めた頃、またペペがアミに乗っかった。いつものように、私がペペを叱り飛ばしながら近づいていくと、その時たまたま側にいた母が言った。
「よしなさい。子供が出来るかもしれないんだから」
 その一言で私は全てを理解した。けれどまだ私だってほんの子供。人間はもちろん、猫の性の営みのことなど、知る由もなかったのだ。
 結局、アミが子宝を授かることはなかった。おまけに子供だった私はペペには敬意をはらいつつ、アミによくいたずらをして遊んでいた。いつかあの世で会ったなら、一番先に謝りたい。ああ、本当にごめんなさい。
 そして私の『引き剥がし作戦』の後遺症は、その後やってきたペペの新しいお嫁さんにも及ぶのでした。




嫁入り間もない頃。
邪魔してごめんねー!


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