-- Patong Merlin Hotel --

悲しきB面
 空港から車で50分。世の「走り屋さん」が狂喜して喜びそうな起伏の激しい山を越えると、パトン・ビーチの街並みが見えてくる。
 ちょうど夕食時のせいか、人の数も車も多いし、所狭しと店が並ぶ光景は想像以上の賑やかさ。
 宿泊したパトン・メルリンはそんなパワフルな街の端に建つ、大型リゾート。これじゃ、かなり騒々しいのでは、との予想は外れて、リゾートに一歩入れば、意外と静か。正面玄関がうるさいストリートの反対側にあるせいだろうか。
 客室は大きなプールを囲むように建つ。案内されたのは1F。夜だったので、到着した日はわからなかったけれど、翌日、日中でもかなり薄暗いことに気づいた。 窓を開け放つと、雨に濡れた熱帯の植物が鬱蒼と茂っている。ちょっとしたジャングル気分、と言えば聞こえはいいけれど、日当たりが悪いもので、室内は少々黴臭い。他の日本人ゲストに聞いたところ、プールに面している部屋はA面、反対側がB面と呼ばれているのだそうだ。
 肝心の室内に至っては、これ以上簡素にしようがない程シンプル。良く言えば無駄なくすっきりまとまっているのだけれど、小さな引出しがドレッサーに2つ付いているだけで、シャツや下着類を収納するのはクロゼットの棚しかない。これがまた結構高い位置にあるもので、背の低い私にはかなり辛い。毎度、脇の下が攣りそうになるほど背伸びをして取り出さなくてはならないんだから、もし長期の休暇だったら、帰る頃にはどこかの筋がいかれていたに違いない。
 ちなみに、バスタオルは使用後、バスタブに入れておかないと、交換してくれないし、そりゃ、注意書きに気づかなかった私たちもうかつだったけれど、半渇きのタオルを使うのはあまり気持ちの良いものではない。高い料金(しつこい)を払っているわけだし、タオルくらい無条件で交換してくれたっていいじゃないか。
 なんだか文句ばっかりだけど、要するに、1F、B面、黴臭、濡れたタオルと、貧乏くじばっかり引かされたような気分になってしまったのだ。安いツアーだし、繁忙期だし、寝るだけだし、と納得しようとは思うのだけれど、お正月料金とはいえ、ずいぶん高くついた気がする。
 でもまあ、せっかくの正月旅行なわけだし、気を取り直していってみよう! と、外に一歩出れば、どよーんとした陰気な曇り空が広がっているのでした。



暗い部屋。

こちら、A面。
アメニティ。こちらもシンプル。 →残念ながらB面の部屋では
景色を楽しめず。



目の前のにんじん
 敷地内にはわりと大きなプールが3つ。今回は年末、しかもぎりぎりになって計画した旅だったゆえ、ろくに下調べもせず、適当なツアーに申し込んでしまったので、プールが充実しているのはうれしい誤算。なぜなら、私にとって、南の島の楽しみは、プールサイドで片手にビール、のんびり読書、につきるからだ。
 どのプールもゆったりとした設計で、デッキチェアも十分な数が用意されている。しかも、ありがたいことに全てのプールの側にもバーがあり、喉が渇いたら気軽にドリンクを注文できる。部屋はろくでもないけれど、これでチャラ。
朝食を済ませたら、早速デッキチェアを陣取り、寝転がる。 が・・・・・・。この時、わずかに見えた青空とプールの水面に降り注いでいた太陽の光は、あっという間に姿を消し、以後、分厚い雲が一日中空を覆ってしまった。
 そのうち晴れてくるだろう、とその時は呑気にかまえていたけれど、昼が過ぎ、夕刻が近づいても一向に天気が回復する気配はない。おまけに、たびたびスコールがやってきては、慌ててバーに駆け込む始末。おかげさまで昼真っから結構なアルコール量を摂取してしまった(これはいつものことだけど)。
 空のご機嫌は翌日も変わらない。時折、気まぐれのように雲が割れ、光が射したと思ったのもつかの間、すぐにどんよりとした灰色の空に戻ってしまう。祈りむなしく、最後の日まで、空が晴れわたることは、ついぞなかった。
私はどちらかというと雨女かもしれないけれど、旅行中、ずっと天気が悪いことなんて一度もなかった。 目の前にプールがあるのに。道を渡ればすぐに海に飛び込めるのに。あんまりじゃないか。
 天に向かって、私は咆えた。
「今回はあきらめよう。でも今後の全ての旅行、必ず連日晴れにして下さい!」





黒猫一家のリゾート・ライフ
 ホテルを一歩出ると、街の中には放し飼いの犬がやたらと目につくけれど、さすにリゾート内にその姿はない。代わりに、猫の姿を時折、見かける。
 プール・サイドをうろついていた黒猫の姿を追うと、出てくるわ、出てくるわ。植物の陰から、ホテル棟の縁の下から、ちっこい黒猫が次々と!
 成猫が2匹+子猫4匹 計6匹。どうやら両親と4兄弟の一家らしい。
 陽が高いうちは(陽なんて出てなかったけどさ)、子猫たちを好きに遊ばせ、夕刻になると母猫が子供たちを呼ぶ。
 なんとも微笑ましい家族愛を、毎日見せてもらった。
 ある日、ちょうど家族がまとまってくつろいでいたところを写真に収めようと、そっと近寄っていくと、突然、客室の窓が開き、猫たちに向かって、勢いよく何かが投げらつけらた。見ると、備え付けの石鹸だった。投げたのは中年の白人男性。
「なにすんだよ! クソじじい!」
 と、とっさに閉めかかった窓に向かって私は再び咆える(もちろん日本語)。
 忌々しそうな表情を残し、おやじは部屋の奥へと消えていった。
 私の腹の虫は治まらなかったけれど、当の猫たちは、一瞬、びくっとしただけで、あとは何事もなかったように毛づくろいなんぞを始めている。案外、よくあることなのかもしれない。4つ星ホテルに暮らしていても、猫たちにとっては毎日がサバイバルなのだろう。
 ちょこまか動き回る子猫たちに目を配る猫おかあさんも大変だ。肩でも揉んであげたい。
逞しく育てよ、チビ黒たち!



黒猫一家。
どれが親で子供だか、わからないな。


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